研究課題/領域番号 |
26462507
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
根木 玲子 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (90600594)
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研究分担者 |
宮田 敏行 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (90183970)
吉松 淳 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (20221674)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不育症 / 先天性血栓性素因 / プロテインS / プロテインS K196E 変異 / 流産 / 子宮内胎児死亡 / 胎児発育不全 |
研究実績の概要 |
生理的な凝固制御因子であるアンチトロンビン(AT)、プロテインC (PC)、プロテインS(PS)の先天性の各欠乏症(先天性血栓性素因)は、静脈血栓塞栓症(VTE)の素因であることが広く知られている。これら先天性血栓性素因と妊娠合併症との関係は、海外ではその関連性が報告されているも、その後の研究では追試できておらず結論に至っていない。また、国内での報告は皆無である。 私達は330人の不育症患者を対象に、日本人でのVTEのリスク因子であるPS K196E変異、及びその他のPS、PC、ATのまれな変異を解析し、それらが不育症のリスクになるかどうかを検討した。不育症患者を2群に分類し、妊娠22週未満の2回以上連続する流産歴のある女性233人(A群)、妊娠22週以降の胎児発育不全および/または子宮内胎児死亡の既往のある女性114人(B群)とした。17人が両群に重複した。 PS、PC、ATの各遺伝子の蛋白質コード領域をシークエンスし変異を同定した。その結果、PS、PC、ATのアミノ酸置換を伴う変異をA群に6人、4人、3人、B群に3人、1人、0人をそれぞれ認めた。特にプロテインS K196E変異は、A群4/233人(0.017)、B群2/114人(0.018)に認めた。これは、一般住民における変異の割合77/4319人(0.018)と比べ、有意差は認めなかった(p値:A群0.94、B群0.98)。また、まれなPS、PC、ATの変異は不育症の3.3%(330人中11人)に認めた。 これらの結果から、PS K196E変異は不育症の遺伝的リスクにはならないと考えられた。また、まれな変異は対照群の頻度がないため確定はできないが、不育症の3.3%しか認めないので、不育症の主な原因とはなりにくいと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者らは、これまでに、大阪府下4施設と共同で、妊娠合併症における血栓性素因の遺伝子研究を行ってきた。妊娠合併症患者350人を登録し、血栓性素因としてプロテインC、プロテインS、アンチトロンビンの各遺伝子の全エクソンを、登録患者全員を対象に遺伝子シークエンスを行った。2011 年、本研究の一部として、静脈血栓症の患者 18 名の解析結果を発表した(Neki et al, Int J Hematol, 2011)。 この研究で登録した患者には、流産(流産回数が2回の反復流産、および3回以上連続する習慣流産を含む。)、子宮内胎児死亡、胎児発育不全の症例が含まれているが、結果をまとめるに至っていなかった。 妊娠合併症患者 350 人のプロテインC、プロテインS、アンチトロンビンの各遺伝子の遺伝子シーク エンスを既に終了していたので、残りの登録者の中から、流産・子宮内胎児死亡などの不育症、胎児発育不全の症例を選び、遺伝子解析結果を突号して解析を行った。登録症例中、不育症、胎児発育不全に分類できる症例は330例である。これらの症例で、プロテインSK196E変異を含め、血栓制御因子の遺伝子変異が疾患発症の素因となるかどうかを検討し、結果をまとめ発表した(Neki et al, Thrombosis Research, 2014)。
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今後の研究の推進方策 |
近年、妊娠高血圧症候群の一分類である妊娠高血圧腎症には、免疫系の障害、特に補体系の破綻が関与することが示唆されている(Salmon et al, PLoS Med, 2011)。しかし、国内での妊娠高血圧腎症の補体因子の遺伝子変異の研究は未だ行われていない。 「妊娠高血圧症候群の補体系因子の研究」として、妊娠高血圧腎症を含む妊娠高血圧症候群の遺伝的背景を明らかにするため、補体関連6遺伝子を中心に候補遺伝子解析を行う。 具体的には、国立循環器病研究センターの妊娠高血圧症候群患者約50名を対象に、補体調節因子であるCFH, MCP, CFI, THBD遺伝子の機能消失型変異、もしくは補体因子であるC3とCFB遺伝子の機能亢進型変異の同定を目指す。 妊娠高血圧症候群の遺伝子解析は、施設内の倫理委員会で研究計画の承認を受けた後、患者試料を収集し、補体関連因子6遺伝子のシークエンスを行い、遺伝子変異と妊娠高血圧症候群の関連を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
妊娠高血圧症候群の補体系因子の研究を実施するに至っていないため、試薬等の購入が、次年度に繰り越されたため、繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子解析に必要な試薬の購入、解析にあたる作業員の人件費等に当てる予定である。
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