上皮性卵巣がんは早期から腹膜転移を起こして婦人科悪性腫瘍の中でも最も予後不良な癌種であるが、その発症機序は依然として不明のままである。近年、卵巣漿液性腺がんの発生母地は卵管上皮細胞であるという新たな仮説が提唱されている状況のもと、卵管上皮細胞由来の卵巣がんを発症する動物モデルの確立は強く望まれている。マウス卵管特異的糖タンパク質遺伝子(OGP)のプロモーター制御下でSV40ラージT抗原遺伝子を発現するトランスジェニック(OGPTag Tg)雌マウスが雌性生殖器で腫瘍を形成することが報告されている。本研究では、卵管上皮細胞由来卵巣がんを発症する動物モデルを確立し、それを用いた発がん及び腹膜転移メカニズムの解明を目的として行った。 まず、OGPTag Tgマウスにおける腫瘍の病理組織的な解析を行った。OGPTag Tgマウスは漿液性卵管上皮がんを発症し、その50%以上は上皮性卵巣がんの病理組織像を示した。また、卵巣の摘出あるいは移植、卵管の摘出などにより、OGPTag Tgマウスにおける卵巣がんの発生は卵管由来であることを明らかにした。以上のことからOGPTag Tgマウスは、卵管上皮由来卵巣がんを発症する動物モデルとして確立できた。さらに、OGPTag Tgマウスの卵巣腫瘍組織より卵管上皮由来の卵巣がん細胞株を樹立した。樹立した細胞株の解析により、卵巣上皮細胞由来の卵巣がんにおける特異的な分子の特定を期待できる。
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