研究実績の概要 |
人体における癌幹細胞は、まだまだ多くの謎を秘めている。癌幹細胞の特性を究明することは将来のがん治療を抜本的に変動させる可能性を秘めており、iPSの研究ベクトルのみでは癌幹細胞医学の進展は限定的なものにならざるを得ない。 本課題代表である江本らは、人体の中でも最も悪性度の高い腫瘍の一つである子宮癌肉腫を言わばライフワークとして研究を積み重ねてきた。子宮は発生学的にミューラー管由来であり、全ての子宮癌はミューラー管癌ともいえる。つまり、ミューラー管癌の最も先祖的な腫瘍とされる子宮癌肉腫の研究は、“固形癌とは何か?を具象的に追究する手段でもある。 本課題の研究基盤は、我々が1)ヒト子宮癌肉腫の希少な細胞株を樹立したこと(Cancer 1992)、2)本腫瘍の旺盛なる血管新生の特性を初めて解明したこと(Human Pathol 1999)、3)本腫瘍の癌幹細胞集団をほぼ同定することに世界に先駆けて成功したことである(Stem Cells 2011)。 現在、抗VEGFをはじめとした血管新生阻害剤はがん化学療法のブレークスルーとなったが、制がん剤同様に薬剤抵抗性という課題も出現した。その理由として腫瘍血管の多様性(heterogeneity)があり、癌幹細胞の働きが大きく絡んでいるという新たな事実が判明したのである。本課題では、上記研究成果を踏まえ、子宮癌肉腫の癌幹細胞が構築する未分化な血管新生域である“血管ニッチ”およびその周辺エリアを標的とした。本腫瘍の血管新生の本態を攻略する治療薬を開発する研究を行った結果、新規血管新生阻害剤であるアザスピレンのラセミ体にその大きな可能性を見出したのである(Journal of Organic Chemistry 83,14457-14464:2018)。
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