研究課題/領域番号 |
26462538
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
三上 幹男 東海大学, 医学部, 教授 (30190606)
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研究分担者 |
岩森 正男 近畿大学, 理工学部, 教授 (90110022)
池田 仁惠 東海大学, 医学部, 講師 (20365993)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオマーカー / 卵巣明細胞腺癌 / 子宮内膜症性卵巣嚢腫 / CA125 / 糖タンパク / 糖脂質 / 抗がん剤耐性 / トランスポーター |
研究実績の概要 |
①現在卵巣癌の腫瘍マーカーとして最も頻用されているCA-125は、糖蛋白のコア蛋白をターゲットしたマーカーであるが、良性卵巣腫瘍・子宮内膜症・月経中・妊娠中・炎症などにおいても上昇するため、卵巣癌の診断おいての特異度が低い。特に、生殖期の女性にしばしばみられる良性卵巣腫瘍である内膜症性嚢胞は、手術や保存的療法によって管理される疾患であるが、最近の研究において、本疾患が卵巣明細胞癌に発展する(de novo)ことが明らかとなり、内膜症性嚢胞の経過観察中は、きわめて注意深いモニタリングが必要であることが示されている。そこでわれわれは、卵巣癌の早期発見のために、あるいは内膜症性嚢胞などの良性疾患と鑑別するために、CA125を補完する新たなバイオマーカーを探索することとした。血清中の糖蛋白を蛋白分解酵素にて糖ペプチドに分解後、LC/MSを用いて網羅的に分析し、100,000を超える候補の中から、新たな卵巣癌のバイオマーカーとしてA2160を同定した。A2160は、内膜症性嚢胞に比較して、いずれの臨床進行期の卵巣癌においても有意に上昇した。特に注目すべきは、内膜症性嚢胞と卵巣癌を鑑別するA2160の診断精度は、早期卵巣癌においてCA-125よりもさらに有効な点である。A2160は、内膜症性嚢胞からのde novo発生の卵巣癌の鑑別にも使用可能な卵巣癌の有用な新規診断バイオマーカーとなりうる可能性がある。
②癌細胞膜糖脂質糖鎖と抗がん剤耐性との関係を示唆する以下の知見が得られた。(1)疎水性抗がん剤(パクリタキセル等)耐性細胞においてトランスポータータンパク質P-糖タンパク質が発現し、糖脂質が増加しラフトにおけるトランスポーターの活性を支えている。(2)親水性塩基性抗がん剤(シスプラチン等)耐性細胞において、シアル酸を含む酸性糖脂質が欠損し、塩基性抗がん剤の結合と細胞内への流入が停止している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①すでに有効な糖タンパクマーカーを同定しており、今後、構造解析および多数例でのvalidationに進む予定である。 ②細胞膜糖脂質は水素結合の供与基を多く含み、細胞膜表面に水の層を形成し、トランスポーター等がその機能を発揮するための反応の場を提供している。今まで糖脂質は腫瘍マーカーとして癌の検出や悪性度の指標に用いられてきたが、抗がん剤感受性にも関わっていることが明らかになりつつある。実際、単なる水素結合のみならず、陰性荷電があれば、細胞膜の性質のみならず、膜タンパク質との相互作用や細胞外からの物質の作用にも大きな影響を与えることが示唆される。今回の実験では、陰性荷電の中でもシアル酸と硫酸で抗がん剤に対する作用が異なっていることが示された。塩基性抗がん剤との結合のみならず、トランスポーターの作用による細胞内への流入と排出にも陰性荷電の種類が影響を与えることが新たに示唆された。腫瘍マーカーとしての糖脂質の利用の方向がさらに拡大すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
①生化学的手法を用いてA2160の構造、何がマーカーとしての感度、特異度を規定しているのか、または症例数を増加させてvalidationを行う。同時に簡便な測定法の開発を行う。 ②抗がん剤による治療においては、耐性化が最も大きな問題であり、耐性化した癌細胞を感受性に変えることができれば治療効果をさらに上げることができる。糖脂質の代謝調節や糖脂質の添加によって細胞膜糖脂質組成を変化させ、感受性に変えるべく、さらに実験を進める予定である。さらに、硫酸基の導入については、硫酸基転移酵素遺伝子を用いて癌細胞を形質転換し、抗がん剤感受性の変化を調べ、さらに、癌細胞の性質がどのように変化するかについても解析を進めることにより、糖脂質の役割を明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に発注した消耗品の価格が当初予定していた価格より安かった為、残金が発生してしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
残額分は来年度の消耗品代として使用する予定である。
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