内リンパ液の産生・吸収は内耳機能維持にはきわめて重要であり、このバランスが崩れると、内耳機能障害である聴力障害とめまいを生じる。難病のひとつであるメニエール病の病態は、内耳を満たしている内リンパ液が過剰である内リンパ水腫である。欧米ではメニエール病の治療として減塩治療が一般的である。臨床面からのアプローチとして、減塩治療における各種ホルモンや電解質の変動を2年間測定した。減塩治療により、1日のナトリウム摂取量を3g以下に減塩できた群ではめまいは著名に改善し、聴力も改善することが確認された。2年間の減塩治療により、血漿アルドステロン濃度が増加することも確認された。よって、アルドステロンが内リンパ嚢において内リンパ吸収を促進することで、めまいや聴力が改善した可能性が示唆された。減塩によるアルドステロン濃度上昇が内リンパ液の吸収を促進し、症状を改善することが推定されていが、アルドステロンが内耳、内リンパ嚢に作用するという制御系について調べた報告はない。分子生物学的アプローチとして、内リンパ嚢における制御系を明らかにしていくためには、LCM法を用いてラット内リンパ嚢上皮細胞からmRNAを抽出し、リアルタイムPCRを行い、イオン輸送体のmRNA増減を調べることが必要であるが、サンプル量が微量であるためこれまでにリアルタイムPCRに成功した報告はない。そこで、LCM法の採取効率を高めるべく新たなmRNA調整方法の新規開発に成功し、条件を組み合わせることで、ラット内リンパ嚢上皮細胞よりLCM法で採取した純粋な内リンパ嚢上皮細胞由来のmRNAを用いて定量PCRを行うことに成功した。減塩治療モデルラット(アルドステロン上昇が予想される)および高食塩負荷モデルラット(アルドステロン低値が予想される)を作成し、mRNAの発現量を比較し、分子生物学的に制御系を明らかにしていく研究を進めている。
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