研究課題/領域番号 |
26462560
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
白馬 伸洋 帝京大学, 医学部, 教授 (70304623)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 内耳虚血障害 / 内有毛細胞 / 活性酸素 / 全身投与 / 神経幹細胞 / 神経栄養因子 / therapeutic time window / 再生治療 |
研究実績の概要 |
突発性難聴の原因は未だ不明であるが、多くの症例では背景に内耳虚血が関与すると考えられる。我々は長期生存可能な一過性内耳虚血の動物モデルを作成し、虚血・再灌流による内耳障害メカニズムやその防御法について研究を進めてきた。その結果、内耳虚血により20dB~40dBの難聴が生じ外リンパ中グルタミン酸濃度が著明に上昇すること、虚血後3日目までに有毛細胞にアポトーシスが生じ脱落が起こることを明らかにした。さらに神経幹細胞をスナネズミ一過性虚血モデルの内耳に虚血後注入し、虚血障害後に生じる内耳障害について生理的・組織的検討を行った結果、進行する内有毛細胞の脱落変性を抑制し、その治療効果を明らかにした。その機序として、虚血によりiNOSが誘導され、誘導されたiNOSによって蝸牛外リンパ液中にNOxが発生することや、free radicalが障害の増悪因子であること(Maetani2003)を証明してきた結果、therapeutic time window;治療効果が期待できる期間が存在しすることを解明した。 また、虚血性内耳障害に対する治療効果の研究においては、幹細胞の一つである神経幹細胞の蝸牛内投与により、虚血障害24時間の後投与であっても、4日後に生じる進行性の内有毛細胞障害を抑制する効果が確認され、臨床的にも急性感音性難聴が発症して治療までの間に一定の猶予期間が示されたことより、神経幹細胞を用いた難聴治療は将来の有用な治療法となる道筋が示されている。 本研究では上記の研究成果をふまえ、神経幹細胞の大腿静脈を介した全身投与よる虚血性内耳障害抑制効果の確認とそのメカニズムを分子レベルで探求することにより、内耳における神経幹細胞を用いた虚血性内耳障害に対する新しい再生治療の確立をめざす。また難聴防御に関連して、このtherapeutic time windowを考慮して、全身投与における虚血性内耳障害に対する神経幹細胞の障害抑制効果が認められる期間についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の異動があったが、もともとの研究施設である愛媛大学耳鼻咽喉科の吉田正講師が新たに共同研究者として本研究に加わり、研究の手助けをしてもらえることと、異動先の帝京大学医学部附属溝口病院より、月に一度週末の2日間の研究日をいただき、愛媛大学に研究に赴くことが可能となり、今まで通り愛媛大学耳鼻咽喉科の研究室を使用して研究が行えることから、平成26年度にはスナネズミの一過性内耳虚血モデルを用いて、スナネズミ胎児の海馬・線条体より採取・培養した神経幹細胞をスナネズミ一過性虚血モデルの大腿静脈に虚血後注入し、虚血障害後に生じる内耳障害について生理的・組織的検討する、を行うことを計画していたが、以下の実験方法にておおむね計画通りに進行している。 ① スナネズミの虚血方法:経口挿管後に両側椎骨動脈に糸をかけて滑車につるした後に他端に5gの重りをかけ、虚血を負荷する。虚血中は人工呼吸器で呼吸管理を行い15分の虚血後に糸をはずし、一過性内耳虚血を行った。 ② 聴力閾値変化の検討:経時的な聴覚閾値の変化をABRで検討する。刺激音には8kHzのトーンバースト音を用い、反応電位は信号処理装置(Synax 1200、NEC社製)にて300回の加算を行う。10dBステップで刺激音圧を変化させて、実験動物の聴覚閾値を求めた。 ③ 有毛細胞障害の観察と定量:虚血後7日目に断頭後すみやかに蝸牛骨胞を摘出し、4%パラフォルムアルデヒドで還流固定後、同液で2時間浸漬固定する。Surface preparationにて基底回転のコルチ器を採取し、Rhodamine-Phalloidin、Hoechst33342にて2重染色を行い、蛍光顕微鏡にて基底回転の内・外有毛細胞を観した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、神経幹細胞全身投与の内耳虚血障害に対する抑制効果のメカニズムを分子レベルで解析するためさらに以下の項目について検討予定である。 ① コルチ器おけるiNOS発現の組織学的検討:コルチ器におけるiNOSの発現を観察することで、神経幹細胞非投与と比較検討し、NOx測定後の蝸牛コルチ器切片をウサギiNOS抗体で染色、その発現と活性の局在を観察する予定である。 ② 神経幹細胞全身投与での障害抑制効果が認められる期間について検討:難聴防御に関連して、therapeutic time window;治療効果が期待できる期間を考慮して、虚血性内耳障害に対する神経幹細胞の障害抑制効果が認められる期間についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動にともない、研究費の移行と研究計画の一部に変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
もともとの研究施設である愛媛大学耳鼻咽喉科の吉田正講師が新たに共同研究者として本研究に加えることで、研究の円滑化を図る。また、研究代表者の異動先である帝京大学医学部附属溝口病院より、月に一度2日間の研究日を設置し、研究代表者が愛媛大学耳鼻咽喉科研究室に研究に赴くこととする。研究費の一部は、代表研究者が直接研究施設である、愛媛大学耳鼻咽喉科研究室に赴く交通費に充てることとする。
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