研究実績の概要 |
突発性難聴の原因は未だ不明であるが、多くの症例では背景に内耳虚血障害が関与すると考えられる。我々は長期生存可能なスナネズミ一過性内耳虚血モデルを作製し、虚血・再灌流による内耳障害メカニズムやその防御法について研究を進めてきた。その結果、内耳虚血により難聴が生じ、外リンパ中グルタミン酸濃度が著明に上昇すること、有毛細胞に脱落変性が起こること、free radicalが障害の増悪因子であること(Maetani, 2003)、臨床的にも急性感音性難聴が発症して治療までの間に一定の猶予期間があることを明らかにしてきた。さらに虚血後に幹細胞の一つである神経幹細胞を蝸牛内投与することにより、有毛細胞の脱落変性を抑制し、その機序として障害増悪因子であるNOxの発生が抑制されることを報告してきた。 上記の研究成果を踏まえ、本研究では神経幹細胞の全身投与よる虚血性内耳障害抑制効果の検討し、さらにそのメカニズムを分子レベルで探求することにより、内耳における神経幹細胞を用いた虚血性内耳障害に対する新しい再生治療の確立を目指した。 結果、大腿静脈を介した神経幹細胞の全身投与により、虚血障害24時間後の投与であっても、4日後に生じる進行性の内有毛細胞障害を抑制する効果が確認された。また、障害増悪因子であるNOxの発生抑制効果について検討した結果、神経幹細胞を投与した群では蝸牛外リンパ液中のNOx発生が有意に抑制されていた。 以上の結果から、虚血による進行性の内有毛細胞障害は神経幹細胞の全身投与によって抑制され、その機序は増悪因子であるNOxの発生抑制に起因することが明らかになった。本研究により、神経幹細胞を用いた難聴治療は将来の有用な治療法となる道筋が示された。
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