研究課題/領域番号 |
26462563
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
坂口 博史 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00515223)
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研究分担者 |
宮下 武憲 香川大学, 医学部, 助教 (60363214)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 内耳 / 蝸牛 / タイト結合 / tricellulin / 難聴 / 内リンパ電位 |
研究実績の概要 |
内耳感覚上皮におけるtricellulinの発現と機能欠失モデルの解析を行った。tricellulinは感覚上皮の頂側結合において均一に発現しており、新規に樹立したtricellulin-KOマウスでは発現が消失していた。tricellulin-KOマウスの聴力をABRにて測定したところ高度難聴を呈しており、組織学的に検討したところ有毛細胞の発生は見られたが、生直後より急速にアポトーシスを生じて脱落することが判明した。レーザー顕微鏡ならびに電子顕微鏡により細胞間接着構造を形態学的に評価したところ、頂側結合の立体的配置や微細構造に明らかな異常は見られなかった。また、ビオチンをトレーサーとして内リンパ腔のバリア機能を形態学的に評価したが、明らかな異常はみられなかった。さらにtricellulin-KOマウスでは内リンパ電位も正常に保たれており、内リンパ電位の低下による細胞死の可能性は否定的であった。また、細胞極性の変化を頂側面マーカーであるPKCζを用いて評価したが、PKCζの集積には異常がなく、細胞極性にも明らかな変化はないと考えられた。有毛細胞の脱落は内リンパ電位の上昇する生後7-14日にかけて進行することから、内リンパの高Kが内リンパ電位を駆動力として有毛細胞の側底面にリークし、有毛細胞傷害をきたしている可能性が考えられた。そこで、感覚上皮の組織培養を用いて有毛細胞の脱落に差が生じるかどうかを検討した。その結果、生体内で見られたtricellulin-KOマウスの有毛細胞の脱落は組織培養では顕著には見られず、有毛細胞周囲のイオン環境の変化が細胞死を引き起こしている可能性が示唆された。現在さらに複数の評価法を用いてtricellulin-KOマウスにおけるバリア機能について詳細な検討を進めており、これらの結果をまとめて学術誌に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたtricellulin分子の発現解析はすでに結論が出ており、また機能欠失モデルの樹立に関しては免疫組織学的な検討から妥当なモデルが樹立されたことを確認している。モデルマウスではヒト遺伝性難聴で見られる聴力障害が再現されており、研究の根幹となるリソースを確立することができた。マウスラインの維持も問題なく行えており、その解析も順調に推移し、内耳タイト結合におけるtricellulinの役割は徐々に明らかになりつつある。モデルマウスが難聴を示すことに対する予想される原因としては、1)細胞間接着の破綻による組織構造の破綻、2)細胞極性の障害、3)内リンパ電位維持の破綻、4)Kイオンのリークによる細胞ホメオスターシスの破綻などがまず考えられる。これらの点についてそれぞれ一定の結論が出てきており、今後tricellulinの変異を原因とするヒトの遺伝性難聴の病態解明にむけての大きな足がかりになると考えられる。また、現在までに得られた成果は一部を国内外の学会において発表していおり、聴衆から好意的な評価を得ていると同時に今後の研究推進の上での有益な意見を得ている。さらに、研究の次のステップとして、タイト結合に関わる種々の分子との協調的な働きや、Kイオンのリークを阻害するような手法を用いた難聴発症の予防などに関する研究が必要となるが、これらの実験に必要な手技も確立しつつあり、今後の研究の推進にも支障はないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ研究の進捗状況は概ね順調であり、モデルマウスの樹立、その機能解析については予定通りの成果が得られている。難聴を生じる機序についてはまだ解析すべき点があり、特に細胞間接着構造の微細変化についてはfreez-fractureなどの特殊な解析法を用いてさらに検証が必要である。また、タイト結合に関わる種々の分子との協調的な働きについても、現在知られている多様なマーカーとの組み合わせにより組織学的、生化学的な解析を進める予定である。さらに、現時点ではtricellulinはKイオンを中心とした特異なイオン環境をもつ内耳において、細胞外微細環境の維持に関わっている可能性が高いと考えられるため、今後はKイオンならびに内リンパ電位の変化を生じるような遺伝学的もしくは薬理学的アプローチを用いてモデルマウスの難聴の進行を予防できる方法を模索する予定である。このようなアプローチが確立されれば、根本的な治療法のない感音難聴に対するブレークスルーになると考えらえる。現在すでにKイオンのリークの駆動力となりえる内リンパ電位を低下させる手法としてウアバインを内耳もしくは全身に持続投与する実験系を模索中であり、投与経路の確立については一定の成果が得られている。このように遺伝子改変モデルと薬理学的アプローチを併用することでtricellulinの機能とその変異による難聴の治療に関する新たな知見を得られると期待される。
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