難治性中耳疾患では中耳手術後に粘膜を温存することが困難な症例も多く、露出した骨面より肉芽の増生が生じて含気腔が確保できず再発、再癒着をきたすことも多い。本臨床研究は、従来の中耳手術(鼓室形成術)後に鼻腔粘膜上皮細胞シートを移植して正常な粘膜を早期に再生させ、真珠腫性中耳炎の再発や鼓膜の再癒着を防止し、難治性中耳疾患に対する手術成績の向上を目指すものである。選 定基準に基づき被験者を選定し,適合性を確認した後に十分なインフォームドコンセントを行い、鼻腔粘膜上皮細胞シート移植を施行した。被験者からの鼻腔粘膜組織採取、血液採取および自己血清の調整し、GMP対応施設にて鼻腔粘膜上皮細胞の培養および鼻腔粘膜 上皮細胞シートの作製を行った。培養上皮シートの品質確認検査を実施し、検査規格値を満たすことを確認し、移植を行った。狭い上 鼓室の骨面やあぶみ骨周囲に対しては移植用デバイスを用いることで細胞シートを移植することが可能であった。移植後6ヶ月以上が 経過しCTを施行した弛緩部型真珠腫症例では、細胞シートの移植した部位に一致して中耳腔、乳突腔の含気化が始まり、 CT所見で非 常に良好な含気化が確認され、理想的は術後形態が得られた。現在までのところ全ての症例で術後経過は良好であり,明らかな合併症 ,副作用,臨床検査異常値は認めていない。鼓膜所見の観察では再陥凹,癒着などの所見はなく、CTにおいても著名な含気化が認められている。聴力検査においても術前に比較して改善傾向を認めており,良好な術後経過と考えられる。
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