研究実績の概要 |
生後8週のICR メスマウスを用いて、蝸牛に対するEstrogenの効果を調べるために、実験群(Estrogen欠乏群)に対しては両側卵巣を摘出し、卵巣を摘出しないSham手術を施行した群をコントロールとした。卵巣摘出群のマウスは非卵巣摘出群に比較して背部の脱毛が多くみられた。ABRの測定では、手術1か月後(3か月齢)の32KHzと術後2か月後(4か月齢)の2, 4, 8, 16,および32 KHzで、非卵巣摘出群(コントロール)に比較して卵巣摘出群において有意な閾値上昇が認められ、卵巣摘出によって難聴が進行する可能性が考えられた。蝸牛血液-内耳関門に対する卵巣摘出の影響を調べる目的で、蝸牛の外側壁の毛細血管の微細構造を観察した。透過電顕による観察では、卵巣摘出群・非卵巣摘出群ともに3か月齢・4か月齢ともに血管条毛細血管基底膜の3層構造は不明瞭になっていた。血管条毛細血管基底膜上のCationic polyethyleneimine (PEI)の分布は、卵巣摘出群・非卵巣摘出群ともに3か月齢・4か月齢ではほとんど認められず、血管条毛細血管基底膜の陰性荷電の著しい減少が示唆されたが、両群間で有意な変化は見られなかった。ラセン靭帯の毛細血管基底膜においては、3か月齢および4か月齢でPEI粒子の整列が確認されたが、両群間で有意な変化は見られなかった。以上より蝸牛外側壁の毛細血管基底膜の陰性荷電の変化は加齢による影響であると考えられ、卵巣摘出による性ホルモンの急激な変化の関与を確認することはできなかった。パラフィン切片による免疫染色法でEstrogen receptor (ER) alpha とER beta の分布の変化を観察した。血管条辺縁細胞と内・外有毛細胞にER alpha とER betaの発現が認められたが、両群間で明らかな差は認められなかった。
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