ミトコンドリアの電子伝達系の不可逆的阻害剤である3-nitoropropionic acid(3-NP)を内耳に局所投与し作成した急性内耳エネルギー不全モデルを用いて、蝸牛内電位の低下が内耳有毛細胞およびらせん神経節細胞に与える影響を明らかにすることを目的とする。本研究ではまずCBA/CaJマウスを用いた3-NPモデルを作成することから開始した。方法は全身麻酔下に500mMの3-NPを正円窓窩にマイクロポンプと微小チューブを用いて局所投与した。その後経時的に聴性脳幹誘発反応(ABR)を全身麻酔下に行い、ABR閾値変化を生じるか確認した。その後3-NP投与後、経時的に深麻酔下で解剖し蝸牛を摘出、組織学的な検討を行った。組織学的検討はプラスティック(Epon812)包埋による薄切切片を用いた内有毛細胞、外有毛細胞、およびらせん神経節の微細構造の観察を光学顕微鏡にて行った。その結果、3-NP投与後2週間を超えると徐々に細胞脱落が生じ、投与後3ヶ月となると、基底回転の内有毛細胞、外有毛細胞およびらせん神経節細胞の高度の脱落が生じ、高音域の難聴を固定化させる要因となっていることが明らかとなった。これらの細胞脱落は、時間経過とともに徐々に進行し、最終的には基底回転から徐々に頂回転へと進行する事も明らかとなった。また免疫組織学的手法を用いて経時的に有毛細胞、らせん神経節細胞脱落の定量的に評価を行った。その結果投与2週間後ではどちらの細胞も10%程度の細胞脱落を認めるのみであったが、投与後3ヶ月では約90%の細胞脱落が認められることが明らかとなった。また有毛細胞の脱落が3-NP投与直後に起こり、らせん神経節は2次的に脱落していることが明らかとなった。有毛細胞の脱落と共にシナプスの脱落も生じており、末梢からの入力低下がらせん神経節脱落を促すことが示唆された。
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