研究課題/領域番号 |
26462574
|
研究機関 | 公益財団法人先端医療振興財団 |
研究代表者 |
内藤 泰 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, 研究員 (70217628)
|
研究分担者 |
千田 道雄 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, その他 (00216558)
十名 理紗 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, その他 (30717020) [辞退]
藤原 敬三 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, その他 (10443566) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 言語習得 / 視聴覚統合 / 小児難聴 / 人工内耳 / 脳機能 |
研究実績の概要 |
今年度は日本語を母国語とする小児を対象とし人工内耳を使用する先天性高度難聴小児と、年齢を対応させた健常聴力小児で視聴覚刺激に対する両群の反応を比較した。また、先天性難聴小児群をさらに6歳以上と6歳未満の2群に分け、その反応も比較した。刺激に用いた視聴覚刺激は単音節子音の音声と動画を組み合わせたもので、音声と動画が一致するものと、不一致のものが含まれ、認知した音節を述べさせることで反応を記録した。その結果、呈示刺激のうち、音声と動画が矛盾しない刺激では人工内耳小児と健常聴力小児の間に差がなく、今回の対象となった人工内耳小児の良好な語音認知能力が確認された。一方、音声と動画が矛盾する刺激のうち、両唇音の音声と非唇音の動画の組み合わせにおいて人工内耳小児と健常聴力小児の間に有意差が見られた。また、とくに注目されるのは人工内耳小児での矛盾刺激に対する反応において音声でも動画でもない単音節に認知された例が多く見られ、彼らが単純に視覚に依存しているのではなく、聴覚と視覚が統合されていた点である。また、このMcGurk効果は、人工内耳小児の低年齢群(6歳未満)より高年齢群(6歳以上)で有意に多く認められた。以上から、人工内耳を使用する高度難聴小児では単なる視覚依存ではない視聴覚統合が、人工内耳使用を長期間続けることで成立することが明らかになり、その成果が専門誌(International Journal of Pediatric Otorhinolarynogology)に掲載された。現在、同研究を内耳奇形例など、音声言語発達がより困難な例において検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常聴力小児のMcGurk効果について日本語を母国語とする場合と英語を母国語とする場合を比較したSekiyamaらの研究では、6歳の時点では日本語、英語ともMcGurk効果が見られないが、6歳から8歳の間に英語の小児でこの効果が増加するのに日本語では増加しないと報告している。これは、英語に比して日本語が母音、子音ともに種類が少なく個々の音節が音響的により単純で分離していることによると推測されている。一方、今回の研究の結果、人工内耳を日常的に使用する先天性高度難聴小児においては同年齢の健常聴力小児に比してMcGurk効果が高頻度に見られ、人工内耳で符号化された音では日本語でも視聴覚の統合機序が強く働くことが明らかにできた。また、この効果が低年齢群より高年齢群で有意に多く見られたたことは、人工内耳小児が人工内耳を装用して成長する過程で視覚情報も援用してコミュニケーションし、その経験の積み重ねが視聴覚統合機能の発達につながったものと推測される。今回の研究に参加した人工内耳小児の静寂下語音弁別能は高度難聴児としては極めて良好なものであるが、それにもかかわらず視聴覚統合機序が年齢とともに発達することは、人工内耳小児が日常生活を営む上では視覚情報の活用が必要であることを示唆する。聴覚障害小児の言語習得過程において必然的に視聴覚統合が生じていることを明らかにし、その成果論文が採択されたことから、研究は概ね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
人工内耳を使用する高度難聴小児の中でも、内耳奇形を有する例では、音声言語の習得がさらに困難になる。今後は、このような、言語習得困難例において視聴覚統合がより顕著に働くか否かを探求する。また、視聴覚統合機構の稼働状況と、語音聴取成績、言語・社会領域の発達との相関等についても、さらに詳細な分析を行う計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文の英文校閲、人件費等で当初の予定より支出が少なく済んだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究の新たな展開と、その成果発表に支出する計画である。
|