嗅上皮障害後の新生細胞の機能代償は、嗅覚入力遮断によって破綻する(最終年度)。メチマゾール障害後28日後のマウスを用い、機能イメージング解析を行った。閉塞後再開放側の嗅球背側領域の匂い刺激に対する神経活動は、開放側と比較して低下していた。嗅覚入力遮断による嗅上皮障害後の組織学的な不完全再生が、嗅覚機能面にも影響を及ぼすことが示された。研究期間全体を通して次の点を明らかにした。 1.新生嗅細胞は、嗅覚入力依存的に再生・成熟する。嗅上皮障害後の再生過程を継時的に観察すると、障害後14日以降で鼻閉側の嗅上皮が薄く、鼻閉側の嗅細胞数、成熟嗅細胞数が開放側と比較して減少していた。 2.適切な時期に嗅覚入力を受けないと、新生嗅細胞は成熟せずに細胞死に陥る。鼻閉側嗅上皮でのカスパーゼ3陽性細胞数は障害後7日では開放側と比較して差はなかったが、障害後14日で、開放側と比較して増加していた。さらに障害後の新生細胞の成熟は、嗅覚入力期間ではなく、障害後7-14日の嗅覚入力に依存することを明らかにした。 3.嗅上皮障害後の組織学的な不完全再生は「未熟な新生嗅細胞の細胞死」によって引き起こされる。障害後の組織の不完全再生が、新生した未熟嗅細胞の細胞死によって引き起こされることを証明するために、マウスに腹腔内にカスパーゼ阻害薬を投与した。鼻閉側での組織の不完全な再生はカスパーゼ阻害薬投与によって抑制されることを見出した。以上の結果から 嗅上皮障害後の再生過程に、嗅覚入力が重要な役割を果たしていることが明らかになり、今後、嗅上皮障害患者に対して嗅覚刺激を用いた治療法の開発が期待できる。さらに嗅上皮障害後に新生した嗅細胞による組織修復ならびに機能代償に関わる神経機構の解明が期待できる。
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