本研究の目的は、麻痺している喉頭の筋に電気刺激を加えて筋収縮を誘発し、機能的な声帯運動を回復させることである。 まず、声門閉鎖筋である甲状披裂筋を刺激するための埋め込み型電極を設計した。電極は縦8mm、横12mm、厚さ0.8mmのシリコンシートに直径3mmの電極を縦に2個、横に3個で計6個配置し、これとは別に不関電極を設置して単極刺激と双極刺激の異なる刺激モードが使えるようにした。 この電極で実際に声門閉鎖運動が誘発できるのか検討するために、イヌの声帯麻痺モデルを作成した。モデル動物は反回神経を切断した後に再吻合した喉頭筋再支配モデルと、反回神経切断後に吻合をおこなわない喉頭筋脱神経モデルの2群にわけ、電気刺激によって誘発される声門閉鎖運動の違いについて検討した。喉頭筋再支配モデルの動物では、小さな電気刺激でも大きな声門閉鎖運動が効率的に誘発され、その運動量の調節も非常に容易であった。一方、喉頭筋脱神経モデルの動物では、電気刺激によって声門閉鎖運動を誘発することは可能であるが、より強力な電気刺激が必要であった。 このシステムが臨床応用されるためには、人工内耳のように刺激発生装置と電極を完全埋め込み型とし、体外からこれを駆動する方式が理想的である。その前段階として、この刺激発生装置を経皮的に作動させることができるか確認した。イヌの前胸部皮下にコイルを埋め込み、バッテリーに接続した体外部のコイルを埋め込み部分の皮膚の上にかざすことで、皮膚を通して刺激発生装置を駆動できることができ、喉頭に留置した電極によって声帯の内転運動が誘発された。この結果に基づき、完全埋め込み型の刺激発生装置の試作器が完成した。前胸部に埋め込まれる刺激発生装置は、体表にコイルを置くことによって駆動されるだけではなく、タブレットのアプリケーションを使用して使用電極や刺激強度の調整が可能になっている。
|