咳払いは、発声、嚥下とともに喉頭が関与する上気道運動の1つであるが、これまで咳払い時の喉頭閉鎖の状態の定量的評価法は確立されていなかった。本研究では、第1に、高速度撮影装置および電気声門図(electroglottography:EGG)を用いて、声帯運動の速度・振動の状態、EGG信号の特徴を基とした咳払い時の喉頭運動の評価法を確立し、咳払い時の喉頭閉鎖異常の実態を把握することを目指した。まず我々は対象症例に強弱2種類の咳払いおよび通常の持続母音発声を指示した時の喉頭高速度画像の動画解析を行い、吸気相の声帯内転運動時の両側声帯間角度・角速度の変化を解析した。その結果両咳払い時には声帯内転角速度は増加した後に、衝突しより突然0となったが、持続母音発声時には声帯内転角速度は増加した後に減速した。このことは、咳払いが通常の発声よりも重度に声帯に傷害を与えることを示している。また同様の実験系を用いて、通常の持続母音発声、大声の持続母音発声、音声治療手技であるハミング発声の3タスクの間で同様の比較を行ったところ、大声発声では咳払いと同じ声帯内転角速度の変化のパターンを生じること、ハミング発声時には声帯内転速度が通常発声時の約半分となり、発声前声門一時閉鎖が消失し、発声時声帯間角度が通常発声時より広い約7度となることを示した。この結果は、大声発声の声帯への傷害性とハミング発声の声帯への保護効果を示している。さらに我々は強弱の咳払い呼気相におけるのEGG信号の振動数が、咳効率を反映する空気力学的指標のpeak expiratory air flowと中等度の相関性を示すこと、さらに性別・正常/反回神経麻痺群別の解析で、男性正常群で非常に強い相関性が示された。これらの結果は、将来嚥下および音声訓練中の咳払いの効率をモニタリングできる新たな医療機器の開発に繋がる可能性を提起する。
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