唾液腺がんは稀な腫瘍であり、さらに30種類以上の組織型が存在し、形態学的診断が非常に困難であることでも知られている。また、疾患特異的な遺伝子異常に関する知見にも乏しい。以上のような理由から、唾液腺がんの診断方法や治療方法は確立していない。このため、当院における唾液腺がんデータベースを利用し、特に予後が不良な唾液腺導管癌と唾液腺腺癌に着目し、免疫組織化学的特徴と特徴的遺伝子変化の検討を行った。 まず免疫組織化学的染色(IHC)による検討を唾液腺導管癌15例と唾液腺腺癌15例について行った。これにより唾液腺導管癌(15例)とアンドロゲン受容体(AR)陽性唾液腺腺癌(9例)の染色パターンは類似しており、臨床的にもAR陽性唾液腺腺癌はAR陰性唾液腺腺癌(6例)よりも予後不良であることが判明した。また、HER2(IHC)とHER2-FISHのconcordanceについては既報の胃がんや乳がんと同様であった。 次世代シークエンサーによる遺伝子解析を行った。合計57遺伝子の解析を、唾液腺導管癌10例と唾液腺腺癌10例について行った。この結果からは先述のIHCによる腫瘍細胞のタンパク発現パターンと、次世代シークエンサーで判明した遺伝子変化は必ずしも一致しないことが見いだされた。その一方で、既存の分子標的薬の治療標的となりうる遺伝子変化も新たに発見された。 以上のことから、今後さらに症例数を増やして検討を行う価値がある結果と考えられ、再現性と一定の頻度が確認されれば、今回判明した標的とそれに対応する分子標的薬による医師主導治験を立ち上げることを検討する。
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