本研究では頭頸部癌の治療効果の向上のため、癌細胞の浸潤・転移のしくみを解明し、そのしくみを基に浸潤・転移を阻止することを目的としている。近年、糖尿病が癌のリスクファクターであることが注目されており、癌細胞における糖代謝異常が癌の進展の大きな要因であることが明らかになりつつある。そこで、我々が開発した癌浸潤・転移モデル実験系などを用いて、糖尿病の病態として高血糖状態において癌細胞特異的な糖代謝異常がEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition、上皮間葉移行)を誘導し、癌幹細胞の活性化を促進し、癌の浸潤・転移を亢進させるかどうかを解明する。 これまでに頭頸部癌細胞における高血糖状態でのWnt、Snail、MT1-MMPの発現、それに伴うEMTの解析に引き続き、癌幹細胞マーカーの同定、スフェロイド軽装の確認などをすることで癌幹細胞の誘導の検討を行った。一部の癌細胞において高血糖状態、あるいはそれに伴うOGTの活性化により、Wnt-Snailのシグナル経路の活性化が認められ、EMTが誘導された。また、高血糖状態で運動能を解析したところ、コントロールの状態よりも細胞運動能が亢進していた。これらの結果より、in vitroにおいて高血糖状態はWnt-Snailシグナル経路を介してEMTを誘導し、癌幹細胞様の機能を獲得することが示唆された。 本年度は、これまでのin vitro実験に加えて鶏卵によるin vivo癌浸潤・転移モデルを用いての動物実験を施行した。OGT活性化させた癌細胞では、in vivoにおいても転移浸潤能が亢進した。 以上のことから、糖尿病における高血糖状態ではOGT活性の上昇がWnt-Snailのシグナル経路の活性化し、EMTが誘導され癌の浸潤転移能が亢進すると共に癌幹細胞様の機能を獲得することが示唆された。
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