研究実績の概要 |
本研究は,Galanin受容体2型(GALR2)を標的分子とする頭頸部癌への新規治療薬の開発を目標とした.申請者らはこれまで, GALR2が頭頸部癌では癌抑制に働き治療標的として有用であることを確認した.更に,ウイルスベクターによる生体への遺伝子導入法も確立した.現在の分子標的治療薬はセツキシマブのように受容体型チロシンキナーゼを標的とするものであるが, 近年,GALR2のようなG蛋白共役受容体(GPCR)を標的とする分子標的治療薬も開発されるようになった.GALR2は,情報伝達経路が多彩で,遺伝子変異が多い頭頸部癌治療に適した分子標的である.また,セツキシマブ耐性を克服する機序に関連することが示唆されている.このためGALR2を標的とする治療薬の開発は新たな頭頸部癌分子標的治療の進歩に大きく寄与するものと思われる.本研究で明らかになった点は,以下に要約できる. 1. GALR2はウイルスベクターを用いて頭頸部癌細胞に遺伝子導入可能であり,十分な殺細胞効果を示すこと. 2. GALR2は,Galanin以外のアゴニスト刺激でもMAPキナーゼ経路の調整により殺細胞効果を示すこと.更に,PI3K/Aktを抑制する経路の存在も示唆された. 3.セツキシマブの作用機序はEGFRのリガンド結合部位に結合しEGFRの下流の情報伝達経路を遮断するものであるが,GALR2の刺激は,セツキシマブの作用を増強する可能性がある.実際,安定発現細胞株による実験では,その併用効果が示された.このため,GALR2の情報伝達経路の活性化はセツキシマブ耐性化克服の一助となり得ると考えた.
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