頭頸部癌の転移は予後不良因子であり、そのメカニズムを解明し治療方法を開発することが予後を改善していくために必要である。癌細胞は様々な遺伝子発現を調整し転移病巣を形成している。複雑な癌転移のメカニズムを解明するには、頭頸部癌の同所移植モデルを作成し、その転移プロセスについて解析する必要がある これまでに我々は頭頸部癌細胞株のFaDu細胞をマウスの舌粘膜に移植し、頸部転移を生じる同所移植モデルを確立した。このモデルの舌腫瘍および転移リンパ節におけるmRNA発現について、RNA-seqによる遺伝子発現解析をこれまで行ってきたが、本データをさらに詳細に分析した。その結果、低酸素応答因子(HIF)に関連するシグナルの他に、NFkBやケモカインレセプターに関連する遺伝子の発現の増加が転移リンパ節内で認められた。これらの因子についても頭頸部癌転移に関わっている可能性が推察される。 次に、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科において過去に手術治療を行い、5年以上経過した早期舌癌症24例のホルマリン固定標本を用いて、HIF1-alphaの免疫染色を行った。後発リンパ節転移(DNM)を生じた症例においてHIF1-alphaの発現の増加を認め、その発現は核内を中心としたものであった。 HIF1-alphaは低酸素下で細胞内に蓄積し、核内に移行することで低酸素下での細胞生存に関わる様々な転写因子の発現を行う。その際に血管新生因子を発現することで癌細胞の転移にも関わっていると考えられている。今後は、血管新生因子以外にEMTやケモカインレセプター、NFkBなどについての発現とHIF1-alphaとの発現の関係について検討していく予定である。
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