研究代表者は2011年より2年間Johns Hopkins Universityにて頭頸部癌の転移に関する研究を行った。その中で頭頸部癌細胞を口腔~咽頭腔に移植し、所属リンパ節に転移を生じさせる同所移植モデル(orthotopic model)を確立した。この同所移植モデルの原発巣とリンパ節転移を採取し、それぞれ組織での遺伝子発現をRNA-seq 法で解析し、転移リンパ節で発現の亢進している遺伝子および活性化しているシグナルを統計的に抽出した。その結果、転移リンパ節においてHIF1 およびHIF2 シグナルの亢進を認め、頭頸部癌の転移巣形成にHIF1が関わっていることを示した(頭頸部癌学会 2015 神戸市) 頭頸部癌においても、他癌と同様に低酸素応答因子のHIF1-αが腫瘍増悪に関与していることが明らかになってきた。我々はHIF1-α発現と頭頸部癌転移について注目し、これまでにHIF1-αが頭頸部癌転移に強く関係していること、HIF1-α阻害により腫瘍の進行を抑制できる可能性を示してきた。 2014年より慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室で治療を行った頭頸部癌症例のHIF1-α発現について検討を行った。早期舌癌25症例の免疫染色ではHIF1-αの核内発現と遅発性頸部転移との関係が示された。また経口的腫瘍切除の適応となった早期下咽頭癌症例においてリンパ節転移の有無とHIF1-α発現との間に相関を認めた。 さらにHIF1-α阻害薬(KC7F2)を用いて下流シグナルの変化をReal Time PCRで測定した(図5)。頭頸部癌細胞株(FaDu、Detroit 562)にKC7F2を投与することにより、EMT関連遺伝子のなかではTWISTが、また癌幹細胞に関係するNANOGおよびOCT3/4遺伝子の発現が低下し、これらの遺伝子発現がHIF1-αにより制御され転移病巣形成に関与していることが示された(AACR annual meeting 2017 Washingtonにて報告)。
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