研究課題/領域番号 |
26462637
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 智昭 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50549095)
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研究分担者 |
辻川 明孝 香川大学, 医学部, 教授 (40402846)
大石 明生 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50572955)
宇治 彰人 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60534302)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糖尿病網膜症 / 糖尿病黄斑浮腫 / 光干渉断層計 / 無灌流域 / 視細胞 / 神経網膜 |
研究実績の概要 |
低侵襲の眼底イメージングの手法として最も臨床的に有用なものが、スペクトラルドメイン光干渉断層計であり、網膜の組織レベルの情報が得られる。糖尿病網膜症では網膜血管と神経組織の両者が障害されることで視機能が損なわれるが、我々は、毛細血管床が消失している無灌流域において、神経網膜内層における層構造が消失しており、また、外網状層も不明瞭となることを新たに見出した(Dodo Y, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2015)。また、層構造の一部、特に、神経線維層及び神経節細胞層に斑状の病変(inner retinal spots with inverted OCT reflectivity)を新たに見出し、その臨床的意義を報告した(Yoza R, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2016)。 OCT所見の臨床的な意義を検証するべく、糖尿病網膜症に対する硝子体手術やステロイド療法の予後との関連を検討し、嚢胞様腔の反射強度の重要性や黄斑部視細胞障害の指標である外境界膜や視細胞エリプソイドゾーンの消失や断裂がよいマーカーとなることを報告した(Horii T, et al. Retina 2015; Murakami T, et al. Jpn J Ophthalmol 2015)。更には、眼底自発蛍光を用いた定量的な手法を新たに確立し、糖尿病黄斑浮腫の有無を定量的に予想しうることを発表している(Yoshitake S, et al. Eye 2015)。 これらの新たな所見の発見は、臨床的な病態把握や予後予測などの診療レベルの向上に役立つことが推測される。また、多面的な疾患であるにも関わらず、糖尿病網膜症の介入の手法は限られているが、これらの病態は今後の治療標的となりえるもので、新規治療法の礎となりうると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、我々は非侵襲的な評価手法で糖尿病網膜症での最も重要な病態である網膜虚血及び血管透過性亢進の病態を把握することを目的としている。当該年度において、侵襲的な検査法である蛍光眼底造影での無灌流域における多様なOCT所見を見出し、非侵襲的な検査法で、網膜虚血の範囲をある程度予測可能とした。また、それのみならず、糖尿病網膜症における血管病変と神経障害の密接な関連をも示唆するデータもあり、今後の研究の展開につながるものと確信している。 眼底自発蛍光での定量化の方法を確立し、糖尿病黄斑浮腫の新規評価法を導入する。同時に、定性的な所見も複数見出しており、今後その臨床的な意義を検討予定である。我々は以前に近赤外自発蛍光での評価も行っているが、多面的な網膜色素上皮の評価を、非侵襲的に行う手法の確立は順調に進行していると考えられる。 これらの研究成果により、糖尿病網膜症の評価が侵襲的な蛍光眼底造影から非侵襲的な検査に置き換えられつつある。また、新たな所見の臨床的意義の検討も付随して進められており、患者さんへの還元も間近となっている。
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今後の研究の推進方策 |
超広角眼底撮像装置を用いた糖尿病網膜症の評価において、我々は新たな所見としてwhite dotsを見出しているが、それによって網膜症の重症度および無灌流域の状態をある程度予測可能な状況になっている。近年、その歪みを補正する方法が確立され、より正確な分布の評価が可能となっており、その臨床的な意義を検討予定である。 近年のOCT angiographyの導入により、4層からなる毛細血管網の状態を3次元的に評価することが可能となっている。網膜虚血にはいくつかのパターンが存在することがわかってきており、古典的には軟性白斑、最近ではparacentral acute middle maculopathyの報告がある。我々が見出したinner retinal spots with inverted OCT reflectivityと共に、各血管層での虚血が、神経網膜にどのような形態的変化をもたらすのか、今後更なる検討を深める予定にしている。 また、眼底自発蛍光に関しては、近赤外および短波長の2種類の自発蛍光の定性的、定量的なパラメータの関連性を検討する予定にしている。網膜色素上皮の状態をより正確に把握することで、外血液網膜柵の新たな臨床的な評価法を確立する予定である。 これらの研究は、大学院生2人と協力しながら、画像取得および画像解析を予定しており、方法論もほぼ確定していることから、滞りなく進展されることが推測される。
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