本研究の目的の一つは、眼瞼手術後の眼表面の管理を適切に行うため、眼瞼手術が自発性瞬目および涙液量におよぼす影響を明らかにすることである。研究期間中に、我々は多くの眼瞼手術を施行し、その術前後の自発性瞬目の変化、眼表面および涙液の変化について検討した。眼瞼下垂では、術前は開閉瞼時移動距離が健常者群と比較して有意に小さかったが、術後に有意に増加し、眼瞼下垂手術によって健常の自発性瞬目に近づくことを明らかにした。また、眼瞼下垂術後の涙液貯留量をメニスコメトリーを用いて測定し、術前の涙液貯留量が多いほど術後に涙液は減少しやすいこと、その効果は術後半年以上持続すること、また術前の涙液貯留量が少ない場合は涙液メニスカスの陰圧が高いために涙液排出が少なく、術後の涙液量はあまり変化しないことを示した。過去の文献では眼瞼下垂手術によりドライアイを誘発すると多く報告されているが、我々の研究結果により、術後ドライアイは術後眼瞼腫脹によって瞬目が浅くなるなどの影響が残る3ヶ月までの間に生じる変化であり、術後に新規のドライアイになることは稀であり、術後ドライアイは一過性の変化であることを証明した。さらに、涙液量が多く流涙症状に悩む眼瞼下垂症例に対しては、眼瞼下垂手術が流涙症の治療法となることを示した。 本研究のもう一つの目的は機能性流涙に対する新規治療法の開発である。過去の治療法は、涙管チューブ挿入術や涙嚢鼻腔吻合術など、通過良好である涙道をさらに広げる手術や、下眼瞼を外側に牽引するといった治療のみであった。我々は機能性流涙に対して下眼瞼の眼輪筋短縮術を施行し、メニスコメトリーを用いて客観的に涙液貯留量の変化を測定し、眼輪筋短縮術が涙液貯留量の減少に効果があること、術後6ヶ月の時点では全症例で術前よりも涙液貯留量が減少したことを示し、機能性流涙に対して眼輪筋短縮術が有効であることを証明した。
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