研究課題/領域番号 |
26462647
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
石川 均 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (80265701)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | NIRS / 新生児 / 視機能評価 |
研究実績の概要 |
新生児の非侵襲的視機能評価測定目的にて、近赤外分光測定法 (Functional Near-infrared Spectroscopy: fNIRS) を用い新生児の視機能を評価した。26年度は3年計画の初年度で、測定の基礎、すなわち、fNIRSにより光刺激後、安定した測定結果を得ることが出来るかを最重要課題とした。具体的には①測定部位(脳表の部位とプローブの数)、②光刺激条件(刺激色、強さ)、③新生児の条件(毛髪、体動、啼泣等)を確立すべく測定、研究を行った。対象は北里大学の新生児特定集中治療室 (Neonatal Intensive Care Unit: NICU)に入院している新生児である。毛髪量や啼泣状態の程度は様々でもあり、全てを対象に測定を試みた。fNIRS装置にはPocketNIRS(ダイナセンス社)を用いた。本機器は従来型のfNIRS装置と異なり、コンパクト、軽量、易移動性であり、プローブ数も2つに限られており、送受光部が鋭利でないため装着時間は短い。そのため、NICUなどの日々の臨床現場でも手軽に測定することが可能である。非鎮静下で閉瞼状態の新生児に対し、半暗室下において視覚刺激を行った。視覚刺激には赤色(635nm)・青色(470nm)の光刺激(250cd/m2)、及び診察時に使用する双眼倒像鏡の光源を用いた。赤色及び青色の光刺激には赤外線電子瞳孔計に搭載されている光刺激プログラムを用いた。視覚刺激時間は10秒間とした。測定部位は対象が新生児であるため、国際10-20法などに従って明確な視覚野の位置を確認すると時間がかかり、その間に新生児が啼泣し測定が困難になることから、短時間で容易に視覚野の位置を確認することができる後頭結節の両側に1つずつプローブを設置した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
赤色および青色光刺激に対する酸素化ヘモグロビン濃度及び脱酸素化ヘモグロビン濃度変化は観察されなかった。これは、閉瞼状態の新生児に対し赤外線電子瞳孔計での250cd/m2の光刺激を行っても、光量が足りないため十分な刺激が網膜に達しなかったことが原因であると考えられる。倒像鏡の光源による光刺激では測定例14例中2例においては左右両半球共に有意な酸素化ヘモグロビン濃度の上昇及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少を認めた。また、5例の被験者においては刺激対側のみに有意な酸素化ヘモグロビン濃度の上昇及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少を認めたが、刺激側はヘモグロビン濃度の変化は観察されなかった。他の7例の被験者においては啼泣状態にありプローブの設置不良が生じる場合や、毛髪が多いために測定ができない場合などで波形が乱れ評価不能であった。 片側のみに酸素化ヘモグロビン濃度の上昇及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の減少が認められた理由は明らかではないが種々考えられる。新生児期には交叉性線維優位であることが知られているが、そのような神経的理由より、むしろ解剖的に新生児の後頭葉部頭蓋骨の厚さが非対称であったり、プローブと頭皮の間に毛髪が混入していることなどの測定上の問題が考えられる。ポケッタブルなfNIRSは新生児の視機能を他覚的に評価するにあたって、手軽に簡便に測定を行うことができた。しかしながら、体動による設置不良や、毛髪などのノイズの影響が大きく、データの信頼性が低いという欠点も浮彫となった。
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今後の研究の推進方策 |
測定部位は後頭結節を基準にプローブを設置する方法で問題なかったと考えられる。しかし改善すべきはプローブの固定方法である。すなわち、昨年度はプローブをメディカルテープで貼り付ける方法を主に用いた。しかし不快感、もしくは毛髪が挟まる痛みからか啼泣する新生児が多かった。今後、抱きながら掌でプローブを押えるようにするのも一案である。また、現在のプローブは接着部が平坦な構造であるため、毛髪の多い新生児を測定することができない。このようにプローブの接着に関しては種々問題があるが、プローブ先端をクッションのようなソフトなスポンジ状のもので覆い込むことも解決策の1つである。さらに送光部及び受光部を少し突起させ、毛髪を掻き分けて設置可能なよう、改良、もしくは新たなプローブの開発を行う。加えてプローブの送光部、受光部共に通常は1か所だが、安定した結果を得るために4か所の受光部を持つ機器の開発にも着手している。これにより、より密着して測定でき、体動にも対処しうる。 光刺激の条件は、当初、開瞼器をかける、もしくは指で開眼させて光刺激を加えていたが必ず啼泣するため測定不能となる。そのため閉瞼した瞼の上から光刺激を与える方法に変更した。しかし今回、赤色及び青色の光刺激は光量が足りなかったため反応を得られなかった。さらに倒像鏡の光源は波形を得られたが、光量を定量的に詳細にコントロールすることができないため、光量コントロールが可能な装置を準備すべきである。 一般的な事柄としては嘔吐、誤飲防止のため空腹時に測定を行っていたが、測定を始める前から啼泣している新生児が多数おり、それは新生児が空腹状態にあることが原因であると考えられる。今後は食後にも測定を試みる必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費申請時に浜松ホトニクス社製(C10448 NIRO-200NX)を用い測定予定であったが、機器の大きさ、利便性よりNICUでの新生児測定には不向きであった。そこで機器本体、プローブが小型化され、さらにデータをbluetoothにてパソコンに送信可能な機器、PocketNIRS Duo(ダイナセンス)を選定した。さらにNIRSによる結果に信頼性があり、かつ正確しいものかを具体的に判断するため均一な光刺激を発生する必要があり、刺激、瞳孔反応が同時に測定可能な赤外線電子瞳孔計(NPi-100)を購入したが、その合計額が当初の計画機器に比較し、低価格に抑えることができた。また、消耗品であるプローブの交換が今回必要なかった点、さらに測定部位へ装着する医療用テープの消費も少ない点が挙げられる。加えて、今回の研究データ発表は近隣県であり、出張旅費や、その他の経費も抑えることが出来たためである。
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次年度使用額の使用計画 |
NIRSで用いるプローブは消耗品であるため、交換する必要が生ずる。またプローブの接着条件を改善する目的で新生児用の新たなプローブを開発しておりビニールテープ等の消耗品を購入する必要がある。さらに現在、日本神経眼科雑誌にNIRSに関する論文(英語)を投稿している。加えて、他誌への原著の提出も計画しており掲載料が生ずる。また今年度は本研究結果を第53回日本神経眼科学会(大宮)、第68回日本自律神経学会(名古屋)、第51回日本眼光学学会(岡山)にて発表する予定であり、旅費等の経費が生ずるため次年度に研究費が必要となる。
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