研究課題
我々は、角膜上皮幹細胞・前駆細胞においてN-cadherinが発現し、幹細胞ニッチに関与している可能性を示唆している。また、生体防御機構であるNrf2/Keap1システムが角膜上皮再生に重要な役割を果たしていることを示した。本年度においては、N-cadherin発現を指標とした、角膜上皮幹細胞・前駆細胞の未分化性の維持メカニズムを調べるとともに、Nrf2活性化の角膜上皮幹細胞の未分化性維持における効果について検討を行った。①N-cadherin発現を指標として、各種阻害剤や成長因子の効果を検討した。昨年度に特定の無血清培養条件において、N-cadherin発現が維持されることを見出していたが、さらに今回、血清存在下条件においても、その発現を長期間維持可能な阻害剤群が存在することを新たに見出した。遺伝子発現のみならず、免疫染色によってもN-cadherinの発現が維持・上昇していることを見出した。現在、N-cadherin発現上昇のメカニズムおよびN-cadherin発現上昇と未分化性維持の関係についても検討を行っている。②Nrf2およびKeap1のsiRNA導入実験を実施予定であったが、初代培養角膜輪部上皮細胞への導入効率が極めて低かったため、代替実験として、低分子化合物の添加を用いた検討を行った。その結果、低温保存時においてNrf2活性化剤を添加した細胞群において、37℃にて培養後の細胞生存率および前駆細胞コロニーの形成率が改善することが示された。Nrf2活性化による(幹・前駆)細胞の保護効果のメカニズムについて現在検討中である。③さらに、我々が検討している角膜上皮幹細胞・前駆細胞の培養系についての成果の一部を利用して、ヒトiPS細胞から機能的な角膜上皮細胞シートを作製することに成功した(R. Hayashi et al. Nature 2016)。
2: おおむね順調に進展している
実験系の変更があったものの、N-cadherinの発現維持可能な培養系を見出すことに成功し、さらに、Nrf2活性化が角膜上皮幹細胞・前駆細胞の生存等に寄与していることを見出し、研究全体としての進捗は良好であった。
Nrf2およびKeap1のsiRNAによる阻害実験は、初代培養角膜輪部上皮細胞への導入効率が極端に低かったため中止したが、代替実験として、低分子化合物等によるNrf2活性化実験に変更することで対応が可能であった。来年度も引き続き、①N-cadherin発現維持/上昇のメカニズムの解明、②Nrf2活性化が及ぼす角膜上皮幹細胞・前駆細胞の細胞生存に及ぼす効果のメカニズムの解明をそれぞれ実施し、論文化を目指す。
本研究に使用する研究試薬等を当初予定より安価に購入することが出来たため、残額を次年度に繰り越した。本年度の研究進捗には影響はないと考えられる。
次年度使用額(7,638円)は小額であるため、次年度への研究計画への影響は軽微なものである。繰り越した研究費により、角膜上皮細胞の培養用培地や添加剤の購入を行い、効率的かつ安定的な実験の実施環境を整える。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (3件)
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