我々は、ケラチン12(K12)の発現により緑色蛍光蛋白質(GFP)が発現するマウス(K12Cre/ZEGマウス)を用いた検討により、遺伝子操作を必要とせず、環境因子のみでマウス表皮細胞から角膜上皮様細胞(K12陽性細胞)への形質転換が可能であることを明らかにしてきた。本研究では、特定の因子添加で表皮細胞から角膜上皮細胞への形質転換を行うことを目的に、角膜輪部実質細胞由来因子の関与について検討を行った。 マウス角膜実質線維芽細胞(MCSF)と輪部実質線維芽細胞(MLSF)のトランスクリプトーム解析により、MLSFで高発現する複数の因子が明らかとなり、これら因子には、5種類のWntシグナル関連因子が含まれていた。また、その多くが、sFRP2やDKK3などのWnt阻害因子であり、Wnt阻害因子のノックアウトが角膜上皮の表皮様分化を促進することからも、これらによるWntシグナルの調節が角膜上皮の分化に関与する可能性が考えられた。 そこで、これらの候補因子の関与についてin vitroでの検討を行ったところ、Wnt阻害因子であるsFRP2添加後のマウス表皮細胞において、K12遺伝子およびPAX6遺伝子発現量の増加傾向を認めることが分かり、角膜輪部のWntシグナルが形質転換に関与する可能性が示唆された。一方、ヒト角膜輪部線維芽細胞をI型コラーゲンと混合して培養したコラーゲンゲル上でマウス表皮 side population (sp) 細胞を培養する三次元培養モデルにおいてもK12遺伝子の発現が認められることが明らかとなり、形質転換における上皮-実質間相互作用を検討する上で有用なツールであると考えられた。Wntシグナルの調節には同時に複数の因子が関与することも考えられることから、今後これらの因子の組み合わせについて、培養モデルを用いた詳細な検討が必要であると考えられた。
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