研究課題
本研究課題では硝子体と主要な免疫担当細胞として知られるT細胞との関連に着目し、硝子体によるT細胞に対する免疫抑制作用、特に制御性T細胞(CD4+Foxp3+T regulatory cells: Tregs)の誘導効果について検討を行った。平成26年度はin vitroにて抗CD3抗体、抗CD28抗体でCD4+T細胞を刺激する際に硝子体と共培養し、1) 制御性T細胞 (CD4+Foxp3+T regulatory cells: Tregs)の誘導効果の有無、2)レチノイン酸受容体を介した硝子体による制御性T細胞の誘導機序について検討を行った。その結果、T細胞刺激培養時に硝子体を添加しない群ではCD4+T細胞に占めるCD4+Foxp3+T 細胞が1.4%、硝子体を添加した群ではCD4+Foxp3+T 細胞が1.8%と有意な増加は認められなかった。そこで次の実験として以前から制御性T細胞の強力な誘導因子として知られているTGF-β1に注目し、TGF-β1を加えてCD4+T細胞培養した群とTGF- β1+硝子体を添加してCD4+T細胞を培養した群でCD4+Foxp3+T 細胞の誘導作用の差異がみられるか検討した。その結果、TGF-β1単独添加群ではCD4+Foxp3+T 細胞が40%、さらにTGF- β1+硝子体添加群では70%と著明な増加がみられた。さらにレチノイン酸受容体阻害剤を添加した群ではCD4+Foxp3+T 細胞の誘導効果が1/4程度まで減弱した。以上の結果より、硝子体はレチノイン酸受容体を介してTGF-β1によるCD4+Foxp3+制御性T 細胞誘導能を促進することが可能であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の実験では豚眼から採取した硝子体を用い、マウスの脾臓からCD4+T細胞を分離、in vitroにて抗CD3抗体、抗CD28抗でCD4+T細胞を刺激する際に硝子体と共培養することで1) 制御性T細胞 (CD4+Foxp3+T regulatory cells: Tregs)の誘導効果の有無、2)レチノイン酸受容体を介した硝子体による制御性T細胞の誘導機序、3)硝子体による制御性T細胞特異分子(CD25、CD103、CD152分子)の発現誘導効果の有無について検討を予定していた。その結果、硝子体単独ではCD4+Foxp3+T 細胞の誘導能は乏しいこと、TGF-β1を加えることでCD4+Foxp3+T 細胞が著明に増加すること、さらにTGF-β1+硝子体で培養するとTGF- β1単独群に比べて、誘導効果が1.5-2倍に増加することを確認した。またレチノイン酸受容体を阻害するとこれらの誘導効果は有意に減弱することが明らかとなった。これらの結果は、fatal bovine serum(FBS)を添加した培養液を用いた実験系、およびFBSを用いない無血清培養液での実験系の両方で同様の結果を得た。上記の結果は硝子体がTGF-β1によるCD4+Foxp3+F T 細胞の誘導能を強力に促進すること、その分子機序としてレチノイン酸受容体が関与していることを示しており、眼内において硝子体が制御性T細胞の誘導に関与している可能性が考えられる。3)については1)、2)の実験の施行に時間を要したため次年度に施行予定である。以上の結果より予定していた実験計画はほぼ計画通りに施行され、平成26年度の研究課題は中程度達成できたと考える。
平成27年度は主に以下の項目についての検討を予定する。1) 硝子体による制御性T細胞特異分子の発現誘導効果の有無:制御性T細胞に高発現することが知られているCD25、CD103、CD152分子に着目し、TGF-β1/β2+硝子体の存在下でCD4+T細胞を刺激培養時にこれらの分子の発現に変動がみられるか検討する。2) TGF-β2+硝子体によるCD4+Foxp3+制御性T 細胞の誘導能の検討:平成26年度の実験にて硝子体がTGF-β1によるCD4+Foxp3+T 細胞の誘導能を強力に促進することが確認された。眼内ではTGF-β1よりもTGF-β2の方がより高濃度に存在することが報告されていることからTGF-β2でもTGF-β1と同様の結果が得られるか検討する。3)硝子体中のトロンボスポンジン-1(TSP-1)の存在と制御性T 細胞誘導能促進作用との関連:以前よりTSP-1はTGF-βを介して制御性T細胞の誘導に関与していることが報告されている (Masli et al. Curr Eye Res 2014)。そこで硝子体中のTSP-1の存在についてELISA法を用いて測定し、さらに抗TSP-1抗体をT細胞刺激培養時に添加することでTGF-β+硝子体によるCD4+Foxp3+制御性T細胞の誘導促進作用に変動がみられるか確認する。
平成26年度は硝子体とT細胞との関連に着目し、硝子体によるT細胞に対する免疫抑制作用、特に制御性T細胞の誘導効果について検討を行った。In vitroにて抗CD3抗体、抗CD28抗体でCD4+T細胞を刺激する際に硝子体と共培養し、1) 制御性T細胞 (CD4+Foxp3+T regulatory cells: Tregs)の誘導効果の有無、2) レチノイン酸受容体を介した硝子体による制御性T細胞の誘導機序、3) 硝子体による制御性T細胞特異分子の発現誘導効果の有無について検討を予定した。今年度は上記1)、2)の実験の施行、追試に時間を要したため、3)の実験を完遂することができなかった。3)の実験は平成27年度に繰り越しとなったため、次年度使用額が生じた。
今後の使用計画として下記3項目を予定している。1) 硝子体による制御性T細胞特異分子の発現誘導効果の有無:制御性T細胞に高発現することが知られているCD25、CD103、CD152、Helios分子に着目し、TGF-β1/β2+硝子体の存在下でCD4+T細胞を刺激培養時にこれらの分子の発現に変動がみられるか検討する。2) TGF-β2+硝子体によるCD4+Foxp3+制御性T 細胞の誘導能の検討:平成26年度の実験にて硝子体がTGF-β1によるCD4+Foxp3+T 細胞の誘導能を強力に促進することが確認された。眼内ではTGF-β1よりもTGF-β2の方がより高濃度に存在することが報告されていることからTGF-β2でもTGF-β1と同様の結果が得られるか検討する。3)硝子体中のトロンボスポンジン-1(TSP-1)の存在と制御性T 細胞誘導能促進作用との関連について検討する。
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