研究実績の概要 |
網膜ミュラー細胞は発生期の網膜前駆細胞と転写因子の発現が極めて類似しているが、哺乳動物では再生能はないと考えられている。その理由は転写因子の発現ではなくその機能に関わるエピジェネティク因子の相違によるものではないかと推測している。そこで本研究ではエピジェネティクス因子導入による哺乳動物網膜のミュラー細胞の再生能獲得を目的として研究を進めている。 本年度は主要ヒストン(H3K4,K9,K27,K36,H4K20)のメチル化状態(モノメチル、ジメチル、トリメチル)を胎生期から成体に渡り抗体染色法を用いて明らかにした。この解析により網膜発生期におけるヒストンメチル化修飾がダイナミックに変化していることが確認された。またこれまでの報告に一致するものもあればそうでないものも見られることから、更なる解析と共にゲノムレベルでの解析の必要性がある。 次にDTACre時期特異的ノックアウトマウスによるマウス網膜の再生可能時期について検討を行った。この目的は成体マウス網膜は再生しないとされるが、発生期や未成熟期の網膜に元来再生メカニズムが存在していたのかを調べるものである。もしそれらが機能しなくなったのであれば、その原因を補うことで再生メカニズムを取り戻す可能性を示すものである。解析の結果、生後の未成熟網膜(未成熟ミュラー細胞)において、視細胞損傷に応答して再生する結果を得られた。これらの成果とエピジェネティクス修飾の情報を集約することで、再生不応時期と可能時期の違い(原因)を明らかにし、成体マウス網膜における再生能獲得に大きな進展をもたらすものと考えられる。
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