研究課題
小腸機能不全(腸管機能不全)モデルにおいて、自らの組織がベースとなった足場を用いて腸管吻合を行う実験を行っている。シリコンチューブをラットの背中の皮下組織に埋め込むことにより、結合織が筒状(チューブ状)となる、biotubeが構成されることは確認できた。この長径1cm~3cmとしたものを用意し、ラット小腸を切断した上で腸管吻合を全層一層にて行った。術後2-4日は生存したがいずれも死亡し、解剖を行うと、吻合部からの腸液の漏出が認められた。大きな穿孔はなかったものの、腸管粘膜の連続性が保たれていないことがわかった。本研究の協力者の研究により、同様の手法は、血管再生・吻合で行われており、血管内皮の連続性が保たれていることが分かっている。血管吻合と消化管吻合の相違点として、血管内を流れる血液中には、血管内皮細胞の成長・生着に必要な成分が豊富に含まれているのに対し、今回の実験系ではbiotubeそのものには血流のサプライは根本的には存在せず、隣接する細胞から毛細血管レベルでの新生血管が伸びてくるのを待つしかないものと思われる。加えて、腸液内には消化酵素や細菌を含むことから、吻合部からの腸液の漏れがわずかだとしても周囲組織に与える影響は非常に大きいと考えなければならない。従って、(1) 腸内細菌が小腸よりは少ない食道を用いた吻合を行う (2) 腸管内皮細胞新生を促進させるための物質を添加する (3) biotubeに血液を供給するための手段を考案する、などの工夫が必要と考えられ、追加実験を行っているところであるが、残念ながら期待した結果を得るところまで至らなかったため、学会発表や論文発表を行うことはできなかった。今後、本研究費以外の研究費を獲得し、一定の成果が得られるよう研究を継続していく予定である。