研究課題
出生後まもなく生じる腸管運動不全の中で最も患者数の多いヒルシュスプルング病は、発生初期の神経堤由来の腸管神経が欠損したり分化・移動障害を来したりすることによって生じることが知られている。基本的治療法は腸管神経欠損部分の切除術であるが、欠損部位の大きさによっては手術困難で死亡したり、術後の腸管運動障害が残ったりする。カハールの予言によりこれまで神経組織は一度損傷されると再生しないと信じられていたが、近年内在性幹細胞の存在が示され、様々な疾患で幹細胞移植により喪失機能が回復した報告がなされた。そこで自己複製能と多分化能を持つ神経堤由来の幹細胞を用いたヒルシュスプルング病の幹細胞治療を実現するために本プロジェクトを実施している。すでに計画(1)として正常腸管の神経堤由来細胞の未分化状態の解析を実施した。神経堤由来の細胞を緑色蛍光タンパク質でラベルしたトランスジェニックマウスにおける幹細胞や分化細胞のマーカー発現を確認し、計画(2)として、免疫電子顕微鏡観察を用いた正常腸管発生過程における神経堤由来細胞の解析を実施した。そして現在までに計画(3)にて新規ヒルシュスプルング病モデル動物開発のために、神経堤由来細胞が緑色蛍光タンパク質ラベルされたマウスを用いた薬剤性のヒルシュスプルング病モデルマウスを作成した。このモデルマウスがヒトの病態と極めて近い表現型を生後も継続的に示したことから、この成果を踏まえ計画(4)として薬剤性ヒルシュスプルング病モデル動物における神経堤由来細胞の分化状態の解析を行った。生後マウス腸管において神経堤幹細胞の維持や増殖が阻害された病態における、各種の腸管細胞群の分化・増殖および遊走能への影響について詳細に解析し、腸管運動機能への影響も定量的に評価できたことから、平成27年度に学術誌に論文として報告した。この成果を基に、次年度の研究計画を遂行したいと考える。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りのスケジュールで研究を実施している。申請時には3年間で6つの項目の実験および解析を進め、腸管神経ネットワークの発生・分化メカニズムに迫る計画を立てていた。その計画通り、1年目に研究計画の(1)および(2)を実施し、2年目の平成27年度には、研究計画の(3)と(4)のデータ取得を順調に進めてられている。計画通りに進展していると考えている。研究計画(1)正常腸管の神経堤由来細胞の未分化状態の解析,研究計画(2)免疫電子顕微鏡観察を用いた正常腸管発生過程における神経堤由来細胞の解析,研究計画(3)新規ヒルシュスプルング病モデル動物の開発,研究計画(4)ヒルシュスプルング病モデル動物における神経堤由来細胞の分化状態の解析
当初の申請時に計画した通り、平成28年度は研究計画(5)および(6)を実施するスケジュールを整えて実験を開始している。研究計画(5)ヒルシュスプルング病モデル動物の神経堤由来細胞の免疫電子顕微鏡観察,研究計画(6)ヒト腸管手術検体の神経節細胞の分化状態の解析
計画通りのスケジュールで研究を実施したが、平成27年度に実施した新規モデル動物の作成のために、胎生致死となる遺伝子欠損によるヒルシュスプルング病モデル動物作成に優先し、産出効率の高い神経堤由来細胞を緑色蛍光タンパク質ラベルしたマウスを用いた薬剤性ヒルシュスプルング病モデルマウスを作成して論文を作成したため、結果的に飼育費が節減できた。
次年度は胎生致死である遺伝子欠損によるヒルシュスプルング病モデル動物を優先的に作出するために、胎仔作成用ヘテロマウスを大量に飼育しないと目的の遺伝子型の個体が得られないため、前年度から繰り越した研究費はマウス飼育費用に充てる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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