研究課題
本年度も継続して全トランス型レチノイン酸(ATRA)で誘導される、鎖肛を伴う二分脊椎症モデルマウスを用いて本課題に取り組んだ。本疾患の術後の排便機能障害は骨盤神経の障害などによる外因性の原因だけではなく、腸管神経系の形成自体にも障害がある内因性の原因・機序が影響しているか否に着目した。鎖肛患者においては二分脊椎症を伴う場合に限らず、術後の排便障害を伴う場合があり、その原因として腸管神経系の形成異常がこれまでの検討により示唆されているが、その機序は明らかではない。その原因を検討するために、腸管神経系細胞の発生を制御する重要な因子のひとつであるグリア細胞由来神経栄養因子GDNFの発現変化に焦点を絞り、GDNFとその受容体であるRETの発現を免疫染色を行い観察した。具体的な方法として、妊娠8.5日の母マウスにATRAを過剰に経口投与し、胎生15日齢で儀死させ、実体顕微鏡下で高位鎖肛を認めた胎仔をモデルマウスとし、その腸管を摘出した。また何ら異常を認めない同腹仔のマウスを正常コントロールとして用いRET/GDNFの免疫染色を行い、発現を比較した。その結果として、GDNFの受容体であるRETの発現に変化は認められなかったが、GDNFに関しては発現に差が見られる個体が認められた。 この発現に変化があることがATRA過剰投与の影響によるものか、本疾患の排便機能障害に影響を与える腸管神経系の発生不良の原因を示しているのか、さらに踏み込んだ検討(遺伝子改変によるモデルマウスによる検討など)が必要であるが、今後ATRA過剰投与モデルを用いた腸管神経系発生の検討のために重要な結果であると考えている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は腸管神経系の発生に関わるRET-GDNF経路に焦点を絞り、本疾患での排便機能障害に腸管神経系の発生異常がかかわる可能性について解析を行った。現状では影響することが明らかな結果が得られていないが、さらに詳細に調べることで有意な結論が得られるものと考えている。また、当初の計画で用いる予定だった先天性二分脊椎症マウスを用いる検討より、レチノイン酸過剰投与によるモデルマウス作製での検討に変更している。理由として、本疾患による排便機能障害の機序を調べる上で、まず先に簡便に作製可能なレチノイン酸誘導モデルマウスを用いて概要を検討することが必要であると判断した。
今後の研究課題の方針は、①RET-GDNFが影響するか否かの詳細の検討(GDNFの定量評価を行うことを計画している。)②他の腸管神経系の発生に関わる因子の影響③先天性モデルマウスを用いた治療効果などを検討する予定である。
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