研究実績の概要 |
セマフォリン3A(sema3A)は近年の報告で、虚血再灌流腎臓障害モデルにおいて早期に上昇することが報告されている。一方、腸管の虚血再灌流障害における神経系の変化に関する報告は極めて少ない。今年度においてはこのsema3Aに焦点を絞り、腸管グリア細胞マーカーであるSox10遺伝子に蛍光緑色タンパクVenusを標識したSox10-Venusトランスジェニックマウスを使用した腸管の虚血再灌流実験を行い、腸管神経系の変化とsema3Aの発現の関連を評価した。 方法は、Sox10-Venusマウスの回腸を使用し3時間の虚血を生じさせた。その後、閉塞解除し再灌流後0, 3, 12, 24, 48, 96時間で検体を採取して抗sema3A抗体を用いて免疫染色を施行、画像解析ソフトにより発現輝度と面積を算出し発現量とした。また神経細胞はPGP9.5陽性細胞数を評価した。グリア細胞はSox10の陽性細胞数を評価した。 結果としてsema3Aは、再灌流後3,12時間の群において著明な上昇が認められた。その後は徐々に発現の低下を認め96時間の時点では、コントロールと同程度まで低下を認めた。Sox10に関しては、0, 3, 12時間の群において発現の低下が認められた。また24時間以降の群においては徐々にSox10の発現の回復を認め、96時間の群においても顕著に観察された。一方でPGP9.5に関しては細胞数が低下する傾向を認めるも、有意な差は認められなかった。 以上の結果より、sema3AとSox10はいずれも再灌流障害後、早期に反応が認められ、腸管虚血再灌流障害との関連性が示唆された。またPGP9.5に関しては有意差が認められず、グリア細胞に比べ神経細胞の変化が乏しいことも同様に観察された。sema3Aが腸管虚血再灌流障害のバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。
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