研究課題/領域番号 |
26462739
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
松崎 恭一 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (20278013)
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研究分担者 |
難波 大輔 愛媛大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10380255)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / 表皮細胞 / 糖尿病 / 難治性潰瘍 / 感染 / 細胞培養 |
研究実績の概要 |
研究協力者の宮本(研究者番号:50725463)の施設(菊名記念病院)における倫理委員会承認のもと、同意を得た糖尿病患者より手術時に余剰となった皮膚を研究に使用した。採取した皮膚は組織運搬セット(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)内の組織運搬用チューブに清潔環境下で入れ、密封のうえ愛媛大学プロテオサイエンスセンターに輸送した。糖尿病患者の手術対象疾患は足壊疽だったため、手術の際の患部の消毒、滅菌操作だけでは、輸送中に残存する細菌が増殖するのではないかと懸念されたが全例で細菌感染による実験の中断にはいたらず研究遂行可能であった。 臨床に用いる培養表皮シートは、切手サイズ程度の皮膚からGreenらの培養法[1]で作成される。しかし、今回の研究で採取可能な皮膚量は少なかったため、上記培養法で行われるトリプシン処理でのkeratinocytesの単離は困難であった。また、単離回収されたkeratinocytesの増殖も良くないことが判明した。そこでexplant法[2]を採用したところkeratinocytesの良好な単離、回収と増殖を確認した。単離・回収したkeratinocytesの増殖能をcolony forming efficiency test[3]で検討したところ糖尿病足壊疽患者の足にもkeratinocytes stem cellsが存在することが明らかになった。 1. Rheinwald JG, Green H. Serial cultivation of strains of human epidermal keratinocytes: the formation of keratinizing colonies from single cells. Cell 1975;6:331–43. 2. Halprin KM, Lueder M, Fusenig NE. Growth and differentiation of postembryonic mouse epidermal cells in explant cultures. J Invest Dermatol. 1979;72:88-98. 3. Nanba D, Toki F, Matsushita N, Matsushita S, Higashiyama S, Barrandon Y. Actin filament dynamics impacts keratinocyte stem cell maintenance. EMBO Mol Med 2013;5:640–53.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するうえで最も困難が予想されたのは、糖尿病足壊疽患者の組織を輸送中に、残存する細菌が増殖するのではないかということであった。糖尿病足壊疽患者の手術では、周術期に感染を合併することが少なくないため[1]、細菌によるcontaminationによって実験の中止を余儀なくされることが懸念された。今回の実験システムで研究遂行可能であることが明らかになったことは意義深い。 さらに研究に使用できる限られた皮膚量で実験を遂行するためのkeratinocytesの単離、回収法を確立できたことは、今後の研究を支障なく推進するうえで重要な成果と考える。 1. Bowker JH. Minor and major lower-limb amputation in persons with diabetes mellitus. In: Bowker JH, Pfeifer MA, editors. Levin and O’Neal’s the diabetic foot, 7th edn. Philadelphia: Mosby Elsevier, 2008:403–28.
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病足壊疽患者における創傷治癒遷延の原因を解明するため、足部皮膚と体幹部皮膚由来のkeratinocytesにおけるGTP結合型Rac1、細胞内アクチン繊維の配向性、表皮角化細胞の運動能を定量的に解析し、両部位のkeratinocytesの機能を比較する。 また採取した足部と体幹部皮膚からkeratinocytesだけでなく、fibroblastsもexplant法で単離・回収のうえcolony forming efficiency testを行い、両者のfibroblastsのコロニーのタイプや大きさを評価する。糖尿病足壊疽患者の創傷治癒遷延がfibroblasts の形質変換による可能性についても推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は糖尿病足壊疽患者の組織を輸送中に細菌によるcontaminationが生じるか否か、少量の組織で実験を遂行できるか否かに研究の重点をおいた。本格的な分析研究は次年度に行う予定としたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
糖尿病足壊疽患者における創傷治癒遷延の原因を解明するため、足部皮膚と体幹部皮膚由来のkeratinocytesにおけるGTP結合型Rac1、細胞内アクチン繊維の配向性、keratinocytesの運動能を定量的に解析し、両部位のkeratinocytesの機能を比較するための試料購入などに使用する。 採取した足部と体幹部皮膚からkeratinocytesだけでなく、fibroblastsもexplant法で単離・回収のうえcolony forming efficiency testを行い、両者のfibroblastsのコロニーのタイプや大きさも評価するため細胞培養関連の試料購入などに使用する。
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