研究実績の概要 |
本研究の目的は集中治療部(ICU)に72 時間以上滞在した成人を対象とし,生体モニタに記録保存された心拍,呼吸,血圧のバイタルサインの整数データのトレンド(時系列)に対して,非線形解析を行い,集中治療部で日常的に評価されている各種の重症度スコアや転帰と複雑性指標との関連を解析することである。 H26年度は,敗血症で入室した成人41名(平均65±16歳)を対象とし,生体モニタに保存された整数呼吸数(integerRR:iRR)と整数心拍数(iHR)について解析した。但し,調節人工呼吸管理中の患者は除外した。対象例のICU入室日数は平均13±10日,4名がICU入室中に死亡した。複雑性の指標として近似エントロピー(ApEn)を算出した。ICU入室最初の24時間及び全入室期間中のiRRとiHRのApEnと一般的な入室時の重症度の指標であるAPACHEIIスコア,日々の重症度の指標であるSOFAスコアとの相関について検討した。その結果,全入室期間中のRRi及びHRiのApEnとAPACHEIIスコア間に,それぞれ-0.4,-3.4の有意な相関(p<0.05)を認めた。更に,RRi及びHRiのApEnと最大及び平均SOFAスコア間についても,それぞれ-0.54,-0.54,及び-0.32,-0.32の有意な相関(p<0.05)を認めた。一方,ICU入室最初の24時間のiRRとiHRについては,APACHEII及びSOFAスコア間に有意な相関を認めなかった。また,ICU生存例(37例)と死亡例(4例)における比較では,全入室期間中のRRiとHRiのApEnは,それぞれ1.78±0.30 vs 1.27±0.33, 0.83±0.42 vs 0.44±0.21,いずれも有意(p<0.05)な違いを認めた。 一般的にApEnの低下は複雑性の低下を意味しており,iRR及びiHRのApEnとAPACHEII及びSOFAスコア間の有意な負の相関,更に,死亡例におけるiRR及びiHRのApEnの有意な低値はいずれも複雑性の低下がより重症度が高い病態を示唆していると解釈され,予想通りの結果となった。
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