急性冠症候群患者において、冠動脈形成術などの早期再灌流治療は患者の予後を改善してきた。しかし、虚血を解除したのちに生じる虚血再灌流障害は未だ解決されていない問題である。虚血再灌流障害には炎症性サイトカインが大きく関与している。そのため、虚血再灌流後に生じた過剰な炎症性サイトカインをサイトカイン吸着カラムによって除去すれば、虚血再灌流障害が解決するのではないかと着想した。我々はすでに、同様に炎症性サイトカインが大きく関与する病態である敗血症モデルにおいて、そのよい結果を報告している。今回ラット心筋虚血再灌流モデルにおいて、急性期にサイトカイン吸着カラムを用いて過剰な炎症性サイトカインを除去することで、再灌流障害が軽減するか否かを検討することとした。その結果、慢性期の心機能悪化が回避され、最終的には生存率の改善に寄与することが期待される。 虚血再灌流モデルで最も注意すべきは、虚血の大きさである。虚血範囲が大きすぎれば、それだけでショックとなり、血液浄化療法の施行が困難となる。一方、虚血範囲が小さすぎれば、再灌流障害の程度を過小評価していまう可能性が高い。このため、大きく血行動態の破綻をきたさない程度のラット虚血再灌流モデルを構築し、結紮冠動脈の選択とその部位の決定を行った。次なる課題は血液浄化システム駆動の際の血圧低下であった。これまで我々がやってきた敗血症モデルと異なり、虚血再灌流モデルは心機能自体に負の影響を与えるため、血圧低下をきたしやすく、脱血する血流量速度の調節に極めて難渋した。
|