多臓器不全は過大侵襲後に生じる今なお死亡率の高い病態であるが、そのメカニズムについては未だ明らかにはされていない。申請者らは現在までの研究にて、多臓器不全発症患者に骨髄由来と考えられるproinsulin陽性異常細胞が、骨髄だけでなく、肝臓、腎臓、脂肪組織に出現していることを発見した。そしてそれらの細胞は、炎症性サイトカインであるTNF-αも産生していた。この異常細胞は高血糖が原因で誘導され、各臓器に移行後、炎症性サイトカインを放出し、多臓器不全発現に寄与している可能性が考えられる。本研究では多臓器不全発症と骨髄由来異常細胞の関係を明らかとし、多臓器不全時における各臓器での病態生理を明らかとすることを目的としている。 平成29年度は28年度に引き続き以下の2項目につき調査を行った。 ①集中治療室入室患者における白血球中Insulin mRNA発現と1)炎症性サイトカインおよび抑制性サイトカインとの相関、2)SOFA score、APACHEⅡ score 等の重症度との関連、3)死亡率との相関、4)各臓器不全のバロメーターとの相関、凝固線溶マーカーとの相関について調査を行った。昨年度の結果と同様に、白血球中Insulin mRNA発現量と重症度との関係、白血球中Insulin mRNA発現量と死亡率との関係に相関関係を認めているものの、血糖値と白血球中Insulin mRNA発現量との相関を認めなかった。 ②臓器障害におけるproinsulin陽性細胞の役割の解明のため、死亡症例に対し、同意を頂けた方の病理解剖標本にて、免疫染色を行い、proinsulin陽性細胞と臓器不全との関わりにつき検討を行った。28年度と同様に肝不全に対してproinsulin陽性細胞数との相関関係が生じているのに加え、proinsulin陽性細胞数と死亡時の臓器不全数との間に関連を認めた。
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