本研究課題では、申請者がこれまでに特定した”細胞表面結合能を有する一群の細胞内タンパク質”について、細胞膜上での新たな分子機能を解析する。 H28年度は、潜在的機能分子に対する細胞膜受容体候補について、個別の相互作用確認実験と想定される機能を解析した。潜在的機能分子、およびその受容体候補として組換えタンパク質を使用し、生理的リン酸緩衝液中で混合後、室温で一定時間インキュベーションした。SDSを含まない非変性条件下でのゲル電気泳動により分離し、銀染色によりタンパク質を検出した。潜在的機能分子と受容体候補の相互作用は比較的弱く、その細胞影響は、損傷組織周辺に限局されると考えられた。 研究期間全体を通じて明らかになったことを以下にまとめる。潜在的機能分子は、組織損傷時に細胞内から漏出し、単球表面に結合する。結合した潜在的機能分子は、単球の細胞内シグナルのリン酸化を増強する。一方、単球表面の受容体は、膜貫通型タンパク質で、細胞接着に関わる細胞外ドメインと細胞骨格調節に関わる細胞内ドメインを有する。潜在的機能分子の受容体は、内皮上にも発現し、その相互作用が損傷組織周辺に限局されることから、この潜在的機能分子は、単球を損傷部位に誘導し、血管内皮表面への接着、および組織内部への遊走を調節していることが想定される。今回、組織の損傷・修復という観点から、急性期病態、とりわけ炎症反応における機能的意義が明らかになってきた細胞内からの漏出タンパク質は、病態モニターのためのバイオマーカーとしてのみならず、新しい治療ターゲットとして有用である。
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