肺水腫の発生機序は肺胞II型細胞(II 型細胞)を介する肺胞側から間質・毛細血管側への水分移動の障害が推測されているが、詳細は不明である。本研究では、その機序解明の一端として、我々が独自に開発した、 II 型細胞の「ドーム形成」をリアルタイムに動画描出するシステムを用いて、種々の薬剤や因子のドーム形成に与える影響を調べることである。これまでの実験で、ドーム形成の定量的評価(ドームの数、大きさ、形成から消退までの時間など)に関しては解決した。初年度(平成26年度)は、1度の実験で、同じ細胞を用いて同時に薬剤や因子の濃度変化を観るために、4分割チャンバーが必要であり、種々のチャンバーを購入して比較検討することに重点が置かれた。しかし、これまでに検討した4分割チャンバーでは、観察する面積が狭く、長時間にわたり高倍率で多くのポイント(ドーム)を観察するとピントがずれてしまい、高画質の画像が得られない難点につき当った。これに対し、次年度(平成27年度)は、引き続き4分割チャンバーでの解像度を向上すべく、実験を繰り返した。最終年度(平成28年度)になり、ようやく本観察システムに適合する4分割チャンバー(底面積0.03平方cm、ib80409、ibidi社)を探し出し、4視野を同時に観察できるシステムが確立できた。さらに肺サーファクタントの分泌を促進するといわれるアンブロキソール(ムコソルバン)の各濃度(0.01~0.1 mM)においてドーム形成が確認できたことから、このin vitroシステムを用いれば、各種薬剤や生理活性物質(サイトカインなど)の II 型細胞の水分輸送に及ぼす影響を検討できることが示された。これらの成果は、日本肺サーファクタント・界面医学会や関連研究会で発表され、学術雑誌にも投稿できた。
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