研究課題/領域番号 |
26462782
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 文彦 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (60632130)
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研究分担者 |
加藤 隆史 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (50367520)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳 / 三叉神経 / 解剖 / 歯学 / 顎 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
本研究の申請書に記載した実験①「前頭前皮質からの下行投射が、痛覚の上行伝達に対してフィードバック回路となっていることを調べる」を試みた。口腔内感覚を伝達する舌神経と口腔外感覚を伝達するオトガイ神経を電気刺激し、刺激に対する応答を刺激部位と同側の島皮質から記録した。記録は、島皮質を被う脳硬膜上に置いた銀球電極から行った。記録部位の同定は、実際の記録中のstereotaxicな3次元位置、および記録終了後に皮質内の基準部位に注入したマーカーの脳組織切片上での位置から判断した。島皮質は、細胞構築観察から、最背側の顆粒性皮質(GI)、その腹側の不全顆粒性皮質(DI)、最腹側の無顆粒性皮質(AI)に分けた。 舌神経の強刺激で大きな誘発電位が記録出来た部位は、bregma 3.0 mmから-1.0 mmの主に GI、一部DIに認められた。このうち最も大きな誘発電位が記録出来た部位はbregma 2.0 mmのGIであった。オトガイ神経の強刺激で大きな誘発電位が記録出来た部位はbregma 2.3 mm から0.3 mmの主にGIに認められたが、最も大きな誘発電位が記録出来た部位はbregma 1.8 mmから1.3 mmであった。これらの結果を、私の学位論文で既に報告している、三叉神経吻側亜核の背内側部(舌神経の入力部位)および背外側部(オトガイ神経の入力部位)に投射する島皮質ニューロンの分布と比較した。その結果、三叉神経吻側亜核の舌神経の入力部位に投射する島皮質ニューロンの多くは、舌の感覚入力を受ける可能性が示された。これに対し、三叉神経吻側亜核のオトガイ神経の入力部位に投射する島皮質ニューロンは、オトガイ部の感覚入力を受ける高い可能性が示された。以上より、島皮質から三叉神経感覚核への下行性投射は、感覚部位の局在性を維持したfeedback回路となり、上行性の口腔顔面感覚入力を修飾している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
26年度の実験では、末梢の電気刺激を用いて、その反応を島皮質から記録した。しかし、痛み入力を特定するために末梢組織(舌粘膜やオトガイ部皮膚)の機械的痛み刺激も行ったが、当初の予想に反して、その応答を上手く記録することは極めて困難であったので、それに長い時間を費やさなければならなかった。また、前頭前皮質の内側部からの記録も試みたが、末梢組織の痛み刺激ばかりでなく末梢神経の電気刺激に対する応答の記録も非常に困難であり、その記録の試みに多くの時間を費やした。以上の記録の困難さは、既に我々が経験している大脳体性感覚野からの記録時とは大きく異なっており、本研究の申請時には予想出来ていなかった。末梢から大脳皮質までの経路がpolysynapticであることがその理由の一つと考えられる。記録し難いことが自律系皮質の特徴と推測されるが、否定事象のscienceとしての証明は極めて困難であろう。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に、本研究の申請書に記載した実験①の一部はまだ結論が得られていないので、27年度も継続して行う。しかし、実験②の開始に必要なデータは26年度の実験①の結果で充分に得られているので、27年度は、申請書の計画に従って、主に実験②を新たに遂行する。実験②は、前頭前皮質から三叉神経尾側亜核への投射が、口腔(顔面)の痛み刺激によって賦活されることを調べる、ことである。三叉神経尾側亜核に投射する前頭前皮質ニューロンが、口腔(顔面)に与えた痛み刺激によって活性化されることも明らかにしたい。 具体的には、動物にストレス(拘束ストレスと口腔内の痛み刺激)を与えた時に、三叉神経感覚核に投射する前頭前皮質ニューロンが活性化することを、活性化したニューロンの標識として使われているc-Fosの検出法を用いて行う。また同一個体で、三叉神経感覚核への投射ニューロンを、三叉神経感覚核へ注入したトレーサーFGの逆行性標識法を用いて標識する。double labeled (c-Fos+ FG) neuronが、ストレスで活性化された三叉神経感覚核への投射ニューロンであり、これを前頭前皮質内で検索する。動物にストレスを与えない時(sham operation)の結果をコントロールとし、与えた時の結果を検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度の実験①の継続と、新たに開始する27年度の実験②の実施には、動物(ラット)、薬品(動物管理、神経トレーサー)、手術器具、ガラス器具(脳内電極、組織切片作成)などの消耗品が必要である。実験②で精度の高い形態学データを得るため、システム偏光顕微鏡(オリンパス・CX-31-P)の購入が必要である。さらに、研究遂行には学会に参加し情報を収集する必要がある。26年度の実験①の継続と、新たに開始する27年度の実験②の実施には、動物(ラット)、薬品(動物管理、神経トレーサー)、手術器具、ガラス器具(脳内電極、組織切片作成)などの消耗品が必要である。実験②で精度の高い形態学データを得るため、システム偏光顕微鏡(オリンパス・CX-31-P)の購入が必要である。さらに、研究遂行には学会に参加し情報を収集する必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
購入する動物(ラット)、薬品(動物管理、神経トレーサー)、手術器具、ガラス器具(脳内電極、組織切片作成)などの消耗品とシステム偏光顕微鏡(オリンパス・CX-31-P)を用い、実験①「前頭前皮質からの下行投射が、痛覚の上行伝達に対してフィードバック回路となっていることを調べる」の継続と、27年度に新たに開始する実験②「前頭前皮質から三叉神経尾側亜核への投射が、口腔(顔面)の痛み刺激によって賦活されることを調べる」を実施する。学会に参加して収集した情報を活用し研究を遂行する。
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