分化細胞がどのようにして脱分化・リプログラミングされ、多能性を再獲得するのか、あるいは、幹細胞の未分化性がどのように維持されているのかについては不明な点が多い。そこで、本研究では、マウス間葉系幹細胞様のC3H10T1/2細胞およびヒト歯髄由来幹細胞(hDPSC)を用いてこれを検討した。C3H10T1/2およびhDPSCを骨芽細胞へ分化させ、次にこれらの細胞をコラゲナーゼ/トリプシン処理によって単離し、30~50%コンフルエントになるように再度ディッシュに播種して通常培地で培養(再培養)した。再培養された細胞は増殖をはじめ、数回の継代の後には、ALPやBSPなどの骨芽細胞マーカーの発現が消失した。さらに、骨芽細胞へ分化した細胞は、脂肪細胞や軟骨細胞へ分化しないが、再培養後は、分化誘導前と同様の多分化能を有していた。これは、骨芽細胞は、周辺組織から単離してin vitro培養すると、脱分化する可能性を示唆している。次に、網羅的な遺伝子発現パターンの比較から、骨芽細胞へ分化した細胞では、骨芽細胞マーカーのほかにPannexin 3を含む数種類の細胞接着因子の発現が増加し、これらの発現は、再培養によって再び減少することかが明らかになった。さらに、Pannexin 3の発現抑制実験では、骨芽細胞への分化が抑制され、その後、再培養を行わなくても脂肪細胞へ分化させることが可能であった。これらの結果から、Pannexin 3を構成要素にもつ細胞間接着が骨芽細胞への分化や維持に必要であり、この細胞間接着を阻害することで、未分化状態が維持されると考えられる。また、再培養した細胞では、上皮がん細胞が浸潤能を獲得する際に発現増加する遺伝子のいくつかが、同じように発現増加していた。したがって、骨芽細胞の脱分化とがん細胞の上皮間葉転換には共通のシグナル伝達経路が関与している可能性が示唆される。
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