研究課題/領域番号 |
26462799
|
研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
|
研究分担者 |
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (70350139)
島津 徳人 麻布大学, その他部局等, 准教授 (10297947)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 歯学 / 病理学 / マウス胎仔 / 顎顔面発生 / リンパ管新生 / リンパ管内皮細胞 / 細胞分化制御 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
哺乳類のリンパ管初期発生においては、体幹部前主静脈がリンパ管内皮細胞分化の起点になることが知られているが、顎顔面諸器官の形態形成にともなうリンパ管発生の詳細については不明である。本研究では、マウス顎顔面領域における時空間的なリンパ管発生を3次元形態観察により可視化するとともに、静脈内皮細胞からリンパ管内皮前駆細胞への分化と出芽、それに継続するリンパ管内皮細胞の遊走・集簇・管腔形成に至る細胞表現型の特徴と分子制御機構について明らかにする。 本年度では、初年度に継続してマウス胎仔(胎生9.5~14.5日)の下顎突起正中部・舌組織におけるリンパ管発生に関わる遺伝子発現プロファイルデータの充実を図った。Real-time RT-PCRを中心とした遺伝子発現解析によりプロファイルデータの検証を行った。加えて、リンパ管発生に重要なProx1, Sox18, CoupTF2, Lyve1, Ccl21の発現パターンを解析し、顎顔面領域では、Prox1の上流にあるSox18は胎生11.5~12.5日、静脈分化の制御因子であるCoupTF2は胎生13.5日、リンパ管内皮細胞の分化誘導に中心的な役割を果たすProx1は胎生14.5日でそれぞれ発現ピークを示し、Lyve1・Ccl21は胎生14.5~16.5日で高い発現を示すことがわかった。 免疫組織化学による解析では、リンパ管内皮細胞マーカーVegfr3・Ccl21と静脈内皮細胞マーカーEndomucinに対する抗体を追加導入することによって、マウス顎顔面領域におけるリンパ管発生過程の概要を掴むことができた。体幹部主静脈から分化して出芽・遊走してきたリンパ管内皮細胞は、胎生10.5日で顎顔面領域に到達、胎生11.5日で小集団をつくり、リンパ嚢形成を経て、胎生14.5日でリンパ管を形成することが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、初年度に作成したDNAマイクロアレイ解析による顎顔面領域でのリンパ管発生に関わる遺伝子発現プロファイルデータについて、Real-time RT-PCRを使って検証ができた。さらに、重要と思われる遺伝子(Prox1, Sox18, CoupTF2, Lyve1, Ccl21)について胎生9.5日から出産直前の胎生18.5日までの詳細な発現パターンを調べることができた。 組織観察では、リンパ管内皮細胞マーカーVegfr3・Ccl21と静脈内皮細胞マーカーEndomucinに対する抗体を追加導入することによって、リンパ管内皮細胞と静脈を構成する血管内皮細胞の組織内局在を明確化することができた。初年度では多重免疫染色で抗体リンパ管内皮マーカ(Lyve1)と分化誘導因子(Prox1)を使用した。しかしながら、Prox1は静脈血管内皮細胞からリンパ管内皮細胞に分化する際にProx1陽性核になるが、リンパ管以外にも骨格筋などの細胞(細胞質)で陽性反応示した。また、Lyve1はリンパ管内皮細胞に分化直後では陽性であるが、遊走している間は陰性であり、顎顔面領域では胎生14.5日前後でようやくLyve1陽性に復帰することが判明した。そのため、リンパ管内皮細胞の同定が不十分なところがあった。Vegfr3はProx1とほぼ同時期からリンパ管内皮細胞に陽性反応を示す(ただし、幼弱な血管内皮細胞にも陽性反応)ことから、Vegfr3とProx1の抗体を組み合わせた染色ではリンパ管内皮細胞が二重陽性として明確に特定することができるようになった。加えて、血管内皮細胞のマーカーとして一般的に使用されるPecam1では静脈と動脈の区別することができないが、Endomucinはほぼすべての静脈内皮細胞にのみ陽性反応を示すため、主静脈等の静脈からのリンパ管内皮細胞分化の状況を観察することができるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度では、Vegfr3・Ccl21・Lyve1・Prox1・CoupTF2・Endomucin抗体を組み合わせた多重免疫標識に基づく組織観察と形態解析は継続する。これまでに、主静脈から分化したリンパ管内皮細胞が顎顔面領域まで遊走してきてリンパ管を形成することは明らかにしたが、頸部にはリンパ管の多くがその起源となるリンパ叢が存在しており、主静脈以外のリンパ管内皮細胞の起源を探る。マウス胎仔の連続切片すべてを免疫染色することにより立体組織観察も含めた解析(島津分担)を行うとともに、局所の詳細な観察では蛍光抗体法で多重染色した切片について共焦点顕微鏡により組織観察と形態解析を行う(田谷分担)。また、リンパ管内皮細胞の出芽・遊走に関与する周囲環境からのシグナルを調べる目的では、Vegfc、Vegfd、Cxcl12、Cxcr4、Rac1などの抗体を用いた多重蛍光免疫染色を施し、顎顔面領域でのリンパ管内皮細胞の伸展過程を可視化することにより、組織器官形成にともなうリンパ管網の形成の推移を捉える。 顕微切断(Laser microdissection・LMD)法で分離・採取した組織試料(遊走細胞を含む組織領域、および対照試料として同時期のリンパ管発生がみられない結合織)を対象として、リンパ管内皮細胞の移動経路を制御する新規の作用因子を抽出するためにDNAマイクロアレイとIPA解析を行い、リアルタイムPCRによる遺伝子発現の定量解析で検証する(佐藤代表・添野分担)。抽出された遺伝子候補を対象として、モルフォリノAS-ODN・阻害剤・中和抗体の投与、標的分子を浸漬したビーズ添付によるノックダウンを計画する(田谷・添野分担)。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度ではリンパ管内皮細胞の分化とリンパ管形態形成に関わる遺伝子発現の解析や新規抗体を含む多重免疫組織化学を次年度に予定していた内容も含めて重点的に遂行した。そのため、今年度から来年度にかけて実施予定であった器官培養系での解析は最終年度で行う予定にしている。従って、今年度予算に計上していた器官培養系解析の費用が来年度に持ち越しとなったためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
計画していた器官培養系解析を実施するため、培養器具とその関連試薬(培地・阻害剤など)、遺伝子導入用試薬に要する経費に使用する。
|