本研究ではインターセクチン(ITSN)の口腔自然免疫系での役割の解明を目的とし、Itsnノックアウトマウスを使用し、採取した組織や検体の解析を行うことで目的を達成する努力を行ってきた。当初129系統のItsn1ノックアウトマウスを主体として研究を進行させる予定であったが、Itsn1ミュータントのうち、ヘテロ接合体の確保は全く問題ないが、ホモ接合体はメスが全く確保できない、あるいは得られたオスが生後4週以内に死亡するといったケースが相次ぎ、研究が進行しない状況が続いた。そこで状況打開の可能性を求め、129系統のヘテロ接合体をC57/BL6と交配してコンジェニック化を試みた。コンジェニック化の途中で試しにホモ接合体同士を交配したところ、問題なくホモ接合体が得られる傾向があったため、この計画を続行してきた。ところが、最終的にコンジェニック化成功後、Itsn1ミュータントのホモ接合体を得ようとしたところ、129系統でみられた現象と同様の出生傾向が現れ、現在までノックアウトマウスがまともに得られていないという結果になった。 このような状況に陥ることは平成27年度の時点である程度予測できていたため、本来の課題を大きく変更した内容を小規模ながら進行させており、ITSNと同様に、口腔自然免疫系で重要な役割を果たすと思われる、MyD88の役割の解明を目指すことにした。重要な研究成果として、細胞内シグナル伝達を担うMyD88は「基礎的オートファジー」とよばれるリソソームにおける分解経路により恒常的に分解を受けていることが見出された。この経路を人工的に遮断すると、MyD88は細胞内に蓄積し、自己活性化を起こして炎症性シグナルを発生させてしまうことが分かった。リソソームの機能不全は様々な状況下で起こりうることが近年明らかになっており、種々の炎症性疾患を考える上で重要な知見であると考えられる。
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