研究実績の概要 |
申請者は、嚥下中枢へ合成カンナビノイド(WIN 55,212-2)を投与すると嚥下反射が促進することを見いだした。この結果を発展させて、日本では医療目的としても使用禁止であるカンナビノイド系薬物に代わり、医薬品として使用可能な内因性カンナビノイド分解阻害剤を用いて、脳内の内因性カンナビノイド量を増加させることにより、嚥下反射の促進効果を調べ、嚥下中枢における内因性カンナビノイド産生メカニズムを明らかにすることを検討した。 これまでに、脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase: FAAH)の阻害剤(URB597)を用いて、生体内のアナンダミドの濃度を増加させ、嚥下誘発を促進させる実験およびモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)の阻害剤(JZL184)を用いて、生体内の2-AGの濃度を増加させ、嚥下誘発を促進させる実験が行われた。その結果、URB597については、高濃度のIT投与の時のみ嚥下反射が促進された。一方、JZL184については、IT投与の場合、とりわけ低頻度刺激において、濃度依存的に嚥下反射促進効果が観察された。しかしながら、IP投与では高濃度のJZL184を使用しているにもかかわらず、薬剤投与の効果は観察されなかった。 この結果は、嚥下中枢で産生された内因性カンナビノイド(2-AG)がJZL187により分解されず、そのため多くの抑制性シナプスにおいて伝達物質の放出が抑圧されたため、結果的に興奮性シナプスの作用が有意になり、嚥下反射を促進するのであろうと考えられる。現在、DAGL(2-AG合成酵素)およびMAGL(2-AG分解酵素)抗体を使用して、JZL184投与後の嚥下中枢における2-AGの増加の組織学的解析を行っている。
|