本研究では、味細胞における苦味受容および伝達機構に注目し、既知のT2R-Gαgust-PLCβ2-TRPM5 を介した苦味受容機構と、これとは独立した新奇の苦味受容機構について生理学的、分子生物学的手法を用い追及し、味細胞における苦味受容機構の解明と、苦味情報のコーディングにおける味細胞の果たす役割ついて明らかとすることを目的とする。 本年度は、苦味受容体T2Rに対する阻害剤の影響について検討した。これまでに、GABAおよびNα-Nα-BM-LysineがヒトT2R4受容体の阻害剤として機能し、キニーネに対する応答を抑制すること、ProbenecidがヒトT2R38を阻害しフェニルチオカルバミドに対する応答を抑制することが報告されている。マウスの短時間リック応答において、3種のT2R阻害剤(GABA、Nα-Nα-BM-Lysine、Probenecid)の効果を調べた結果、これらの阻害剤はいずれもマウスの苦味物質(キニーネ、デナトニウム、シクロヘキサミド、フェニルチオウレア)に対するリック応答に影響を与えなかった。さらに、gustducin-GFP発現味細胞のキニーネ応答に対するGABAおよびNα-Nα-BM-Lysineの効果について検討した結果、行動応答の場合と同様明確な応答抑制効果は見られなかった。これらの結果から、これまで報告されている3種の苦味受容体阻害剤(GABA、Nα-Nα-BM-Lysine、Probenecid)はマウスの苦味受容体には影響を与えない可能性が考えられる。また、苦味受容細胞に発現する受容体遺伝子について解析するため、gustducin-GFP味細胞を用い、single cell RNA-seqを行う予定であった。個々のgustducin-GFP細胞を回収し、次世代シーケンシング解析用ライブラリ作成を行う段階までは到達したが、シークエンシングを行うまでは到達していない。
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