研究課題/領域番号 |
26462820
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
森田 貴雄 北海道医療大学, 歯学部, 講師 (20326549)
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研究分担者 |
根津 顕弘 北海道医療大学, 歯学部, 講師 (00305913)
谷村 明彦 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (70217149)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 唾液腺 / 開口分泌 / Ca2+シグナル / cAMPシグナル / ウイルスベクター / Ca2+センサー / cAMPセンサー |
研究実績の概要 |
本研究は、唾液腺細胞における開口分泌と、Ca2+ならびにcAMPシグナル、SNAREタンパクの関わりを明らかにし、唾液腺における開口分泌の分子基盤を解明する事を目指す。 1)アデノウイルスベクターを顎下腺開口部から逆行性に注入し、Ca2+センサー(YC-Nano50)をラット顎下腺に発現させ、in vivoでCa2+応答を解析した。アセチルコリンやピロカルピンなどのムスカリン受容体アゴニスト刺激によりCa2+応答が観察されたが、開口分泌を起こすβ受容体アゴニスト(イソプレナリン)刺激によるCa2+応答は、現在の解析システムでは検出されなかった。同様の方法でcAMPセンサー(Nano-lantern-cAMP)を顎下腺に発現させ、酵素処理により単離顎下腺腺房細胞を調製した。この細胞をイソプレナリンで刺激するとcAMPシグナルの上昇が認められ、唾液腺細胞におけるcAMPシグナルのリアルタイム解析に初めて成功した。 2)顎下腺と同様の手法で耳下腺にアデノウイルスを用いて蛍光タンパク質を発現させることに成功した。顎下腺での発現と異なり、蛍光は耳下腺組織の一部にのみ認められた。 3)アデノウイルスより組織ダメージが少なく、長期的遺伝子発現が期待されるアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてCa2+センサーを発現させる事を試みた。その予備実験として、唾液腺由来培養細胞(HSY, A5)にAAVを用いてYC-Nano50を発現させ、その発現効率を蛍光強度およびWestern Blotにより解析した(研究協力者:高橋亜友美)。次に、AAV導入により唾液腺由来培養細胞を用いてYC-Nano50の恒常発現細胞を作製した。この細胞の長時間Ca2+イメージングを行ったところ、無刺激でのCa2+オシレーションが観察された(研究協力者:村田佳織)。 逆行性注入法によりAAVを用いてYC-Nano50を顎下腺に導入した。現在の方法では、YC-Nano50の発現は認められず、ムスカリン受容体刺激による明確なCa2+応答も検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)アデノウイルスを用いてcAMPセンサー(Nano-lantern-cAMP)を顎下腺組織に発現させ、その単離腺房細胞においてβ受容体アゴニスト刺激によるcAMPシグナルのリアルタイム解析に成功した。しかし、このcAMPセンサーは発光プローブであるためシグナル検出には発光基質を必要とし、シグナル強度も比較的弱い。in vivoにおけるcAMPシグナル解析には問題点があるため、蛍光FRETを用いたセンサーを用いるなどのシステムの改良が必要と考えられる。 2)アデノウイルスを用いて耳下腺組織に蛍光タンパク質を発現させる事に成功した。しかし、この発現は耳下腺組織の一部にのみ見られたことから、単離耳下腺細胞やスライス標本を用いた解析、さらにin vivoにおける解析において実験効率の著しい低下が予測される。そのため、導入・発現効率を高める改良が必要である。 3)組織スライス標本を用いたシグナル解析の実験系が確立されておらず、この部分の研究が遅れている。 4)GFP-LifeactならびにGFP標識SNAREタンパク発現ベクターの作製が遅れている。超高感度Ca2+センサーを現在作製中である。
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今後の研究の推進方策 |
1)新たな蛍光FRET式のcAMPセンサーを作製し、ウイルスベクターを用いてこれを唾液腺に発現させ、単離顎下腺細胞を用いてアゴニスト刺激によるcAMPシグナルを検出する。 2)GFP-Lifeactの動態とCa2+シグナルとの同時解析を行うことを予定している。このため、赤色側の蛍光を発する高感度Ca2+センサーを作製中である。アデノウイルスベクターを用いてこのCa2+センサーを唾液腺組織に発現させ、単離顎下腺細胞を調製してアゴニスト刺激によるCa2+シグナルを確認する。その後、GFP-Lifeactと赤色Ca2+センサーを同時に唾液腺に発現させ、単離細胞を用いてGFP-Lifeactの動態とCa2+シグナルとの同時解析を行う。 3)耳下腺におけるタンパク質発現効率が悪かったため、先に顎下腺を用いて分泌刺激によるCa2+やcAMPシグナルの解析を行うことにする。現在のシステムではin vivoでの分泌過程のリアルタイム解析が困難であるため、顎下腺から単離腺房細胞を調製してアミラーゼ分泌を起こす刺激(イソプレナリン)によるCa2+やcAMPシグナルを解析する。そのための腺房細胞調整方法なども検討する。 4)AAVを用いた導入方法の改良を検討する。さらに、AAVと同様に組織ダメージの少ないウイルスベクターであるレンチウイルスベクターを作製し、これを用いて唾液腺に各種センサーを発現させることを試みる。 5)ムスカリン受容体アゴニストのピロカルピンを連続投与すると、2回目の投与時に唾液分泌量が増加することが観察された。この増加した唾液中のアミラーゼなどのタンパク質成分が増加しているかを解析することにより、Ca2+シグナルがタンパク質の開口分泌に与える影響について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に、海外研究協力者と研究打ち合わせおよび共同研究を行う予定で海外旅費を計上していたが、都合により本年度はできなかったため、その旅費分として当該金額が生じた。さらにベクターの作製が遅れたため、ベクター作製費の一部として当該金額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に遂行できなかった海外共同研究者との研究打ち合わせ、共同研究のための海外旅費、2-3回の国内学会での研究発表のための国内旅費を使用する。動物購入費、ベクター作製費、試薬購入費として物品費を使用する。
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