研究実績の概要 |
癌の悪性化には癌局所におけるニッチの影響が重要な因子の一つである。癌のニッチには間葉系幹細胞(MSC), 癌間質関連線維芽細胞(CAF), フィブロサイトやマクロファージ(Mφ)などの細胞が存在し、互いに細胞間相互作用を介して癌の存続や悪性化に関与しているとされる。我々は平成26年度からフィブロサイトに代わる細胞としてMφに焦点をあてて研究を進めてきた。特に、我々が独自に開発したマウス骨髄由来のMSCと血球系細胞との共培養系において誘導される制御性Mφ(M2-Mφ)の誘導機構について今年度も研究を進めた。昨年度までに、血球系細胞のM2-Mφ化に関与するMSC由来の液性因子M-CSFを見出し、さらにMSCと血球系細胞の接着がM2-Mφ化に関与している可能性が示唆されたので、本年度は、マクロファージM2化にMSCと血球系細胞の接着が関与するか否かを検討した。tdTomato TGマウス骨髄細胞を接着因子受容体阻害剤ならびに中和抗体の存在、非存在下で二週間培養し、Lineage (Lin) Cell Depletion Kitで分離したMSCと血球系細胞を用いて、M2マーカー(CD206, IL-10)の発現をフローサイトメトリーならびに定量的RT-PCR法で調べた。integrin αLβ2(LFA-1)阻害剤は血球系細胞のマクロファージM2化を一部阻害した。一方で、integrin α4β1(VLA-4)の阻害剤はM2化に影響しなかった。また、LFA-1のリガンドである接着因子ICAM-1に対する中和抗体はMSCと血球系細胞の結合を阻害したことから両細胞の接着へのICAM1-LFA-1システムの関与が示唆された。これらより、ICAM-1-LFA-1を介したMSCと血球系細胞の接着がCD206やIL10発現の上昇を伴うマクロファージM2化に一部関与している可能性が示唆された。
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