研究課題/領域番号 |
26462831
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 公則 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 准教授 (80381276)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自然免疫 / Paneth細胞 / αディフェンシン |
研究実績の概要 |
口腔と腸管は連続しており口腔常在菌や歯周病菌などが腸管の細菌叢や機能に影響を及ぼすことは容易に考えられる。しかし、今日までに口腔細菌の腸管への影響を自然免疫の観点から詳細に検討した報告はない。この理由として、基礎的検討を実施することが出来る適切な腸上皮細胞株が存在していないこと、定量的かつ簡便な自然免疫学的評価法が確立されていないことが考えられる。そこで本研究では組織構造体 (オルガノイド)培養法を応用し、腸管自然免疫の主要エフェクターである抗菌ペプチド・αディフェンシンを分泌し自然免疫や腸内細菌叢の恒常性維持に寄与しているパネト細胞の株化を目標とする。平成27年度は、パネト細胞の株化を目指してオルガノイドを構成する上皮細胞よりパネト細胞と腸上皮幹細胞の分離を試みた。オルガノイドを細胞単位に分離後、パネト細胞と小腸上皮幹細胞の表面マーカーCD24を認識するモノクローナル抗体で標識し、フローサイトメーターにてCD24発現量と細胞形態を解析してパネト細胞と腸上皮幹細胞とをそれぞれソーティングした。得られた腸上皮幹細胞とパネト細胞をエンテロイドと同じ条件で培養した結果、細胞同士が接触後、コロニーを形成し、時間依存的に増殖、7日後にはエンテロイドへと成長した。次に、口腔から侵入した菌が腸管上皮に及ぼす影響を評価できる測定系を構築するために、エンテロイド内腔(腸管内腔側)にマイクロインジェクション法を応用して蛍光溶液が細胞を障害せず適切に注入可能かを検討した。その結果、短時間でエンテロイド内腔に、任意量の蛍光溶液を注入できる技法が確立できた。以上より、エンテロイドとマイクロインジェクション法の応用により、培養パネト細胞内腔側細胞膜に菌成分等を直接曝露できる実験基盤が樹立できた。今後、この方法を応用して口腔常在菌や病原菌のパネト細胞への影響を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は昨年度から引き続き、パネト細胞の株化を目指した。培養オルガノイドを細胞単位に分離した細胞集団から、細胞形態とCD24抗体標識によりパネト細胞をソーティングし長期培養できる条件の検討(培養液、培養基質など)を行ったが増殖を維持することはできず、株化には至らなかった。しかし、パネト細胞分離と同時に腸管上皮幹細胞を分離し、この2種類の細胞をエンテロイドと同様の培養条件(R-spondin1等を含む無血清培地、Mtrigel包埋)によりコロニー形成から細胞増殖が見られ、パネト細胞を陰窩部位に含むエンテロイドに成長した。また、培養エンテロイドの内腔に任意の物質をマイクロインジェクションで注入できることが可能となった。以上より、培養条件下でのパネト細胞と口腔細菌との相互作用を詳細に評価・研究する基盤が確立され、本研究課題はおおむね順調に伸展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度(最終年度)は今年度に確立した、培養エンテロイドから分離したパネト細胞と小腸上皮幹細胞の共培養法による腸管上皮コロニー形成法、またはエンテロイド内腔へのマクロインジェクション法を利用し、口腔由来細菌刺激物(口腔常在菌である、S. mitis、S. sanguinis、L. casei等、歯周病原因菌である、P. gingivalis、P. intermedia、A. naeslundii等、または各種細菌由来抗原、LPS、 Lipid A、 muramyl dipeptide、 lipoteichoic acid等)をパネト細胞に曝露し、パネト細胞からの分泌物(抗菌ペプチド)の定量や発現をsandwich ELISAと免疫組織化学法で解析する。また抗菌ペプチドの遺伝子発現、Toll様受容体 (TLR)等、自然免疫関連遺伝子の発現をリアルタイムPCR法で解析する。以上の実験により、口腔常在菌・病原菌の腸管における自然免疫系と細菌叢へのクロストークをαディフェンシンの分泌と殺菌機能および分子機構の両面から定量的に評価することで、口腔細菌による生活習慣病などの疾患発症のメカニズム解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に納品された物品については4月に支払われるため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
3月に納品された物品については4月に支払われるため残額が生じた。
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