研究課題/領域番号 |
26462854
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研究機関 | 青森大学 |
研究代表者 |
大越 絵実加 青森大学, 薬学部, 准教授 (10287667)
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研究分担者 |
梅村 直己 朝日大学, 歯学部, 助教 (80609107)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬剤耐性 / がん幹細胞 |
研究実績の概要 |
【研究目的】本研究はがん幹細胞マーカーの一つであるCD44が恒常的に発現する口腔癌細胞を用いてCD44による細胞増殖及び多剤耐性化への寄与を解明する。 【当該年度に実施した研究成果】 平成27年度以降の研究実施計画の通り、多剤耐性を解明するため、口腔がん細胞のシスプラチン耐性株を作製し、機能的に現れる細胞表現型を解析し薬剤耐性に関する変化を検証した。 【具体的内容】口腔癌治療に用いられている抗がん剤は細胞周期のS期からG2/M期に作用し、DNAダメージによるアポトーシス誘導を作用機序に持つ。申請者らはCD44を恒常的に発現する転移性口腔癌細胞HSC-3を用いて、CD44が一過性に過剰発現した場合、DNAダメージにおけるG2/M期のアポトーシス誘導が減弱されることを見出している。さらにその作用はChk1を活性化してアポトーシスに至る経路において抵抗性を示すことが今回明らかとなった。またCD44ノックダウン細胞ではChk1を活性化してアポトーシスに至ることが示された。このことからCD44の過剰発現によっておこるG2/M期のアポトーシス抵抗性は、DNAダメージにおけるChk1の活性化に関与する経路であることが一部示唆された。 【意義と重要性】DNAダメージに対して、アポトーシスを起こさないG2/M期の停滞は、修復ミスによるDNAの変異を起こした娘細胞が出現しやすいことが考えられる。CD44を発現する細胞は、G2/M期に長く留まり、DNA修復を行う時間を確保することで生存に有利な薬剤耐性を獲得した変異株の出現が高くなる、という危機的な意味を持つ。本研究の目的であるこの再構成される次世代がん細胞への変化におけるがん幹細胞の役割を解明し、治療戦略を提示する上で重要な知見である。DNA修復を行うG2/M期におけるCD44の役割を解明することで、がんを効率よくアポトーシスに導くことが可能になるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多剤耐性を解明するため、口腔がん細胞の抗がん剤耐性株を作製している。口腔癌治療の第一選択薬であり、細胞周期S期にDNAダメージ作用を示すシスプラチンを口腔がん細胞培養株HSC-3に長期間投与(18か月以上)し、2種類の薬剤耐性株を得た。これら2株について1) 経時変化により、CD44発現との連動性を検証した。2) 臨床で用いられている抗がん剤を用いて作製株の交差耐性を調べた。1)作製したシスプラチン耐性株2株は親株と比較し、3倍程度のシスプラチン抵抗性を獲得していた。親株同様CD44を発現しており、その発現量は増加していた。これらの2株間の比較ではCD44variantの発現に差があるようである。2) シスプラチン耐性株はドセタキセル、5-フルオロウラシル、SN-38 に対して3~5倍の交差耐性を獲得していることが明らかとなった。一方、分子標的薬erlotinib、DNAインターカレーターdoxorubicinに対する作用は親株と比較し、大きな差は認められなかった。申請者らが望む多剤耐性を獲得した細胞株は親株から誘導すると、抗がん剤の長期間暴露(18か月以上)が必要であった。このため当初の研究計画より若干の修正が必要となったが、すでにそれに対応した研究を進めている。本研究計画当初には想定しなかったCD44によるG2/M期のアポトーシス抵抗性は、DNAダメージにおけるChk1の活性化に関与する経路が関与するという新たな知見を得ることができており、研究計画全般的には順調に進行しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
多剤耐性株を用いて治療後の耐性に関わる因子を解析し、次世代のがん細胞に対する治療戦略を模索するという当初の計画に従って研究を推進する予定である。口腔がん細胞のシスプラチン耐性株を用いて1) 解析はABCG2の基質であるHoechst33342および ABCB1(P-gp)の基質であるCalcein-AMを用いてそれらの細胞内蓄積を測定し、ABC輸送体タンパク質の機能を数値化する。親株、CD44ノックダウン株、耐性株2株それぞれの薬剤排出能を比較する。2) 薬物感受性の変化および細胞表現系が変化したことで考えられる細胞内代謝(解糖系およびミトコンドリア呼吸系)を作製した2株についてマイクロアレイやメタボローム解析し、比較検討する。3) シスプラチン耐性株についても DNAダメージにおけるChk1の活性化に関与する経路や細胞周期への影響を比較する。今後は、作製した耐性株に交差耐性を獲得しなかった分子標的薬と、シスプラチンとの併用で耐性を克服するための治療戦略が得られるか検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者らが望む多剤耐性を獲得した細胞株は親株から誘導すると、抗がん剤の長期間暴露(18か月以上)が必要であった。このため当初の研究計画より使用予定金額の変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費はマイクロアレイとメタボローム解析に必要な消耗品購入および研究発表・論文投稿費用に使わせていただく予定である。
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備考 |
文部科学省科学研究費助成事業-科研費-ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI 2016年4月1日付採択 整理番号HT28043 平成28年度採択プログラム「薬を創る薬剤師」委託予定金額(円)344,000 [後援]青森県教育委員会、公益社団法人日本薬学会東北支部会
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