これまで我々は、歯周病細菌Porphyromonas gingivalis(Pg)が直径数十nmの外膜ヴェシクル(OMV)を産生し、そのOMVには様々な病原因子や抗原が豊富に含まれることを報告してきた。本年度は、Pg のOMVの歯周病ワクチン抗原としての特性を理解するべく、OMVの安定性、免疫原性、ワクチン効果、安全性を含めた体系的な検討を行った。OMVはタンパク分解酵素に対して極めて安定であり、長期にわたりその形態、タンパク組成、免疫原性が保持されることが明らかとなった。また、OMVをPoly(I:C)アジュバント(OMV+Poly[I:C])と共にマウスへ経鼻免疫すると、OMVの投与量に依存して血中、および唾液中に、それぞれ菌特異的IgG、およびSIgAが誘導された。一方で、OMVをTiterMax Goldと共に皮下免疫すると、血清IgGを誘導できるが、唾液SIgAを誘導できなかった。OMV+Poly(I:C)の経鼻投与によりマウスの菌特異的血清IgGは免疫後28週以上、唾液SIgAは18週以上、高い抗体価を維持した。採取された唾液は菌体を凝集させ、血清はジンジパインの機能と菌の生育を阻害した。この唾液による菌の凝集活性と血清によるジンジパイン阻害活性は、ワクチン株のみならず異なる菌株に対しても作用(交叉反応)を示した。さらに、マウスの口腔へPgをチャレンジした後、本菌に対する排除効果を調べたところ、OMV+Poly(I:C)を経鼻免疫したマウスの口腔内Pg菌数は、コントロールマウスに比べて有意に減少した。OMVの安全性については、経鼻投与されたOMVの近傍組織での蓄積量を調べる実験、およびOMVを直接脳内へ接種する実験を行い、マウス中枢神経系や呼吸器系へのOMVの蓄積は微量であり、特にOMV経鼻投与による中枢神経毒性は極めて低いことが明らかとなった。
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