研究課題
知覚過敏処置後における症状の後戻りの原因ならびそのプロセスはいまだ解明されていない。その理由としては、知覚過敏の所見が本人の訴え以外に症状として捉える事ができない上にプラセボ効果によるマスキングが発生するため、in vivoの解析および象牙質透過性を対象としたin vitroシミュレーションの困難さがあげられる。我々は、ルミノール化学反応を応用した象牙質透過性の定量的計測法を開発し、知覚過敏抑制材の効果を経時的に解析する手法を確立した。本研究では知覚過敏処置後の象牙質に対する微細形態学的解析を行い、並行して象牙質の透過性計測を実施し抑制効果が時間と共に変化するプロセスを解明し、より実効性ある知覚過敏抑制法を確立する事を目的としている。我々の開発した装置は、ヒト象牙質の透過性を簡便にしかも透過量の瞬間的な変動を捉え高速サンプリングをしている。その構造は、充填された発光トリガー液を加圧する事により試験片内に浸透させ、他方のchamberの発光試薬に接して化学発光を生じる。その強度を高感度フォトダイオードにて検知して、時系列的にコンピューターで処理することで試料の透過性を計測している。平成26年度では、ごく微細な象牙細管の露出が症状に強く影響する事を考慮し、より狭い範囲での測定を可能とするためにマイクロフローセンサーを計測装置に導入した。細管内で結晶化を期待する抑制材では、塗布時に粒度分布にバラツキが生じ部位により透過性が変化する。このセンサーを導入する事により、従来の十分の1程度の面積においても計測する事が可能となるため、より実体に合った結果が期待できるようになる。これとは並行して、当初の予定どおり象牙質表面および細管内部の状態について、走査型顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、X線回折および飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた分析を行い、現在短期の例について解析をすすめている。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、本研究で使用するルミノール化学発光を利用した象牙質ディスクの透過性測定装置にマイクロフローセンサーを導入する事により、より微細な範囲で透過性を計測できるようにするための改良を行っており、使用する象牙質ディスクの基本的透過性、個々の試料のバラツキや実際に使用するスミヤ層がある状態での試料の透過性を計測し、コントロールとなる値を測定した。また象牙質表面と象牙細管内にハイドロキシアパタイトの結晶生成が期待できるリン酸カルシウム系の知覚過敏抑制材について、透過性抑制の効果および後戻りが始まる時期を見いだすための計測を開始した。これとは並行して、象牙質表面および象牙細管内部の状態について、走査型顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、X線回折および飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた分析を行い、その生成物および組成の変化等の解析を開始しており、ほぼ計画どおりと考えられる。
従来より象牙質知覚過敏症では象牙細管が開口しており、この非常に少ない数の象牙細管により症状が惹起されているという報告が多数ある。そのため、臨床所見をシミュレートするためには、より少ない面積の象牙細管、理想としては数本単位の象牙細管の透過性を計測する事は非常に意義のある事である。そのため平成26年度に行ったマイクロフローセンサーを応用した象牙質透過性計測装置の改良に関しては、従来の方法と比較してこの装置の優位性について評価を行う。また、ハイドロキシアパタイトの結晶生成を期待したリン酸カルシウム系象牙質知覚過敏抑制材の透過性抑制効果の補足が期待どおりに得られているか評価する。本研究では、これまでに報告されているヒトの歯髄内圧で歯髄側から加圧し、生体と同様の環境をシミュレートしている。この条件で長期間での十分な変化が認められなかった場合をも考慮し、象牙質内部、特に細管内の状態を詳細に観察し、この種のシミュレーション研究モデルの条件や妥当性について検討するとともに、濃度や圧力調整等で変化検出の精度を向上させる。本研究でのシミュレーションモデルの条件や妥当性が適当であると認められた場合には、リン酸カルシウム系知覚過敏抑制材の結晶生成速度や結晶の質を高めるための配合比、付加成分や環境要因等について、26年度と同様試料数を増やしながら遂行し、透過性抑制効果破壊の過程を詳細に分析するとともにより効果の高い知覚過敏抑制材開発のための条件解析を詳細に行う。特にこの主の材料では、成分変化による形態学的、結晶学的検討を注意い深く行う必要がある。データ数に関しては、象牙細管構造には個体差が大きく影響してくる事が予想されるため、統計学的に精度の高い研究データが得られるように十分な試料を準備する。
当該助成金が生じた主な理由は、消耗品の使用が少なかった事と外国旅費を使用しなかった事による。消耗品に関しては、既存の消耗品の利用等で一部補えた事と想定していた価格より物品を安価に購入できた事であり、外国旅費に関しては、当該年度は研究スタートの初年度あり、得られたデータの信頼性を確認するための時間が予想以上にかかったため、予定していた海外での発表ができなかった事による。
27年度に請求している消耗品の金額に併せ、資料収集および発表を積極的に行う事により計画的に使用して行く。
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