研究課題/領域番号 |
26462876
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
竹中 彰治 新潟大学, 医歯学系, 助教 (50313549)
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研究分担者 |
大島 勇人 新潟大学, 医歯学系, 教授 (70251824)
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
小田 真隆 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00412403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 共焦点レーザー顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの細菌を標的とした殺菌効果に頼ったバイオフィルム(BF)制御から、マトリックスを標的とした抗菌成分に頼らない新しい制御法への戦略転換の必要性を提言するとともに、BFの剥離・分散効果に主眼を置いた新しい制御法を開発することを目的としている。 これまで、口腔BFに洗口液をはじめとする抗菌成分を作用させても、BF深層部への抗菌成分の浸透遅延が起こるだけでなく、BF構造体が付着界面に残存することを報告してきた。今回、sub-MIC濃度のグルコン酸クロルヘキシジン(CHG)をStreptococcus mutansに作用させるとBF形成関連遺伝子の一部の発現が亢進し、BF形成量が増加することを確認した。さらに、この形成量は単一BFより他菌種共存による複合BFにおいて顕著であった。BF内部で浸透性が減弱した殺菌剤は深層部ではsub-MIC濃度となり、化学的コントロール法が生存細菌によるBF形成を亢進する可能性が示唆された。 また、我々は根管内BFにおいても、次亜塩素酸ナトリウム (NaClO)を始めとする殺菌剤が局所で濃度勾配を起こし、sub-MIC濃度となる結果、BF形成を促進する仮説を立てた。その検証に先立ち、in vitro感染根管モデルを作製後、未固定非脱灰凍結切片によりEnterococcus faecalisの象牙細管侵入量と次亜塩素酸ナトリウムの浸透量を計測した。その結果、1ヶ月培養により、E. faecalisは最大300ミクロンまで侵入したが、2% NaClOを2分作用させたとき(20℃)の浸透深度は52-94ミクロン、20分作用させたとき(同)の浸透深度は153-237ミクロンであり、作用時間が短い場合は浸透深度が短くなり、深層部に侵入した細菌は生存しつつストレス応答を行う可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、いくつかのsub-MIC濃度の殺菌剤が口腔細菌の特定の菌株において、バイオフィルム形成を亢進することを確認した。さらに、そのバイオフィルム形成に関与する遺伝子発現は単一菌種よりも複合系バイオフィルムにおいて顕著である可能性を示唆するデータを得ており、化学的コントロール法の弊害作用を明らかにする足がかりとなった。バイオフィルム制御の概念転換の必要性を提示するという本研究課題の目的のひとつの達成に向けて、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Sub-MIC濃度の抗菌物質によるバイオフィルムの形成促進効果は、すべての事象において発生するわけではなく、菌株と抗菌物質の特定の組み合わせで観察される。臨床で頻用される殺菌剤、消毒剤がバイオフィルム形成遺伝子の発現を増強する細菌種を特定するために、網羅的スクリーニングを行う。その後、発現量の亢進が高いものを組み合わせた複合系バイオフィルムにおける発現動態を解析する。 一方、殺菌に頼らないマトリックスを標的とした制御戦略の開発に取り組む。この候補物質は既に選定済みであり、口腔内に応用しうる味や使用感のよい製剤化も考慮に入れつつ組成を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度において、遺伝子解析のための抽出、解析キットに多額の消耗品費を要することが想定されるため、余剰額を次年度に繰り越すようにしている。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子解析のための多額の費用がかかる予定となっている。本年度の余剰額を使用して、データの信頼性を高めるために各実験の再現回数の増加を図る。
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